震生湖

震生湖：関東大震災が生んだ奇跡の湖

神奈川県秦野市と足柄上郡中井町にまたがる震生湖は、1923年（大正12年）の関東大震災によって誕生した堰止湖です。大磯丘陵北部に位置し、そのユニークな成り立ちから、現在では国の登録記念物にも指定されています。

誕生の経緯：関東大震災と地滑り

関東大震災の激しい揺れによって、震生湖の直下、推定10km未満のフィリピン海プレートが大きく動き、北へ約7kmの位置を震央とする地震が発生したと考えられています。この強い揺れは、現在の震生湖がある秦野市市木沢地区で、谷の北側斜面を約200mにわたって崩壊させる大規模な地滑りを引き起こしました。

崩落した土砂が沢をせき止め、水が溜まることで、現在の震生湖が形成されました。この地滑りの滑面となったのは、約6万6千年前の箱根火山の噴火による堆積物である東京軽石層で、風化が進んで粘土状鉱物ハロイサイトに変化した地層でした。湖の東側には、この時の崩壊跡が絶壁として今も残っており、当時の様子を垣間見ることができます。

当初は西と東の二つの湖に分かれていたそうですが、現在は一つに繋がった湖となっています。太鼓橋が架かるくびれを境に、西側を主湖盆、東側を副湖盆と呼んでいます。

関東大震災による周辺被害

震生湖周辺でも、関東大震災による地滑りや崩壊は多発しました。震生湖から北300mほどの峰坂では道路が崩壊し、下校中の小学生2名が巻き込まれたと推測されていますが、発見には至りませんでした。湖の入口には、この2名への供養塔が建立されています。

丹沢山地では、全山面積の20％にあたる約6,000haが崩壊し、丹沢を水源とする酒匂川、金目川、相模川水系では、大量の土砂による大きな被害が発生しました。中津川では、土砂の流入で川床が8mも上昇したと言われています。

震生湖の歴史：命名から現在まで

1923年（大正12年）9月1日の関東大震災による陥没池の形成後、秋には地元の篤志家によってコイ、フナ、金魚など数千匹の魚が放流されました。翌年頃には「震生湖」と命名され、その後も様々な出来事が起こりました。

東京帝国大学の寺田寅彦による測量調査（1930年）、湖畔への句碑建立（1955年）、貸しボートの設置（1956年）、福寿弁財天の創建（1961年）など、多くの歴史が刻まれています。観光地としての開発計画もありましたが、ゴルフ練習場の建設により頓挫しました。

近年では、秦野市による湖畔の用地取得と売店、貸しボート、桟橋の撤去（2018年度）、そして2021年3月には国の登録記念物に指定されるなど、歴史と自然を繋ぐ取り組みが続けられています。2023年には関東大震災100周年を機に、神奈川県震災遺構30か所の1つにも選定されました。

震生湖の名前の由来

震生湖の名前の由来は、1924年頃、地元の有志によって名付けられたとされています。しかし、誰が名付けたのかについては複数の説があり、はっきりとはしていません。東京帝国大学地震研究所の寺田寅彦が名付けたとする説もありますが、これは寺田の調査が1930年に行われたことから、誤った俗説であると考えられています。

震生湖の現状と観光

震生湖周辺は震生湖公園として整備され、遊歩道により湖の周囲を一周できます。休日には多くの観光客が訪れ、ハイキングや釣りを楽しむスポットとして親しまれています。春にはスイセンやソメイヨシノ、秋には紅葉など、四季折々の美しい風景も魅力です。

湖畔には、寺田寅彦の句碑があり、駐車場も複数箇所あります。かつては、湖畔駐車場へのアクセスに問題がありましたが、現在は解決済みです。また、震生湖を横断する太鼓橋は老朽化が進んでいるため、2025年3月までに架け替え工事が予定されています。

震生湖の水質と生物

流入河川がないため、工場排水や家庭排水の影響は受けにくい環境です。しかし、1980年代の調査では、雨水由来の揮発性有機化合物が検出されたと報告されています。現在も定期的な水質調査が行われています。

生物相としては、コイ、ヘラブナ、ブラックバス、ブルーギル、オイカワ、アメリカザリガニ、ミドリガメなどが生息しています。1923年の形成直後からコイやフナなどの放流が行われ、現在もその伝統は続いています。

アクセス

秦野駅から徒歩約50分
秦野駅から神奈川中央交通バス（秦15系統）「震生湖」下車（平日1往復のみ）
* 秦野中井インターチェンジから車で約10分

震生湖は、関東大震災という歴史的災害の痕跡を今に伝える貴重な場所であり、同時に自然豊かな観光地でもあります。その歴史と自然を肌で感じることができる、魅力的な場所です。

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