霊台橋

熊本県美里町に架かる優美な石橋、霊台橋

霊台橋は、熊本県下益城郡美里町を流れる緑川に架かる、江戸時代末期に建造された石橋です。別名、船津橋とも呼ばれ、昭和42年（1967年）に国の重要文化財に指定されています。

特筆すべきは、明治以前に竣工した石橋としては日本最大のアーチ径間を誇る点です。大正、昭和時代に建造された石橋を含めても、その大きさは日本で3番目に位置します。また、単一アーチ石橋としては熊本県内で最も大きい規模を誇ります。

緑川水系の石橋群

緑川水系には、霊台橋の他にも、美里町指定重要文化財である二俣橋や馬門橋、山都町に架かる通潤橋、聖橋、金内橋など、数多くの石橋が存在します。これらの石橋の中でも、霊台橋は通潤橋と共に、国の重要文化財に指定されており、その文化的価値の高さが伺えます。

霊台橋の石組みは、石同士が隙間なく精巧に組み合わされており、当時の高度な技術が窺えます。この橋の架橋時に培われた技術は、霊台橋に30年先行して建造された雄亀滝橋とともに、7年後に完成する通潤橋に応用されたと言われています。種山石工が手がけた石橋は、庶民が資金を出し合って造ったため、比較的質素なものが多いのですが、深い谷に架かる霊台橋は、土台を流水から守るための補強用の石垣や欄干が設けられています。

明治時代後期には、大型車両の通行を可能にするために補強工事が行われましたが、昭和41年（1966年）に隣接して鉄骨製の新橋が架けられたことで、自動車の通行は禁止されました。その後、昭和55年（1980年）に補強前の本来の姿に復元されましたが、補強の痕跡は歴史の一部として残され、橋の両端が若干高くなっています。

霊台橋の歴史

霊台橋が架けられた場所は、かつての日向往還の一部であり、船津峡と呼ばれる深い渓谷で、緑川の流れが最も速い場所でした。橋が架けられる以前は、下流で船渡しが行われていましたが、雨による増水時には利用できず、荷物を抱えて渓谷を昇り降りする負担も大きかったため、役所は急用の際に矢に通信文を結んで連絡を取っていたほどでした。

文政2年（1819年）から木橋が架けられるようになりましたが、再三の流失に見舞われたため、惣庄屋の篠原善兵衛が、二度と流されることのない石橋の架橋を発案し、自らも出資して種山石工の卯助に建設を依頼しました。

卯助は、兄弟の宇市、丈八、そして地元の大工・伴七と共に、弘化3年（1846年）に工事を開始し、翌年の弘化4年（1847年）に、当時としては前例のない大きさの石橋を完成させました。

梅雨と台風の季節を避けて工事が行われたため、わずか6～7ヶ月という短い期間で完成しました。工事には、72人の大工と地元の農民が協力し、延べ43,967人が参加しました。地元の農民の協力によって予定よりも早く工事が完了したことが、中国の古典「孟子」の中の文王霊台建造の話に類似していると考えた篠原善兵衛は、この故事にあやかり「霊台橋」と名付けました。霊台とは、物見台の意味です。

しかし、あまりの大工事に心労が重なり、卯助はその後二度と石橋を造ることはなかったと言われています。

明治33年（1900年）に県道の一部となった際、石橋の上に石垣を積み、橋上の道を平らにすることで、バスやトラックなどの大型車両も通行できるようにしました。昭和27年（1952年）に県道が国道に昇格したことに伴い、霊台橋は国道橋となりました。昭和41年（1966年）5月には、上流側に並行して鉄骨製の新霊台橋が完成し、国道橋としての役目を譲った石橋は、自動車の進入が禁止され、観光用の人道橋となりました。

その翌年には重要文化財の指定を受け、昭和55年（1980年）から完成当時の姿に復元する工事が行われ、現在に至ります。

霊台橋のデータ

全長：89.86m
道幅：5.45m
高さ：16.32m
径間（アーチの大きさ）：28.3m

観光情報

ライトアップが行われています。
駐車場と国道を挟んだ反対側に、観光用の休憩所（民間）があります。
霊台橋の緑川左岸には、新霊台橋架橋の翌年に廃止された内大臣森林鉄道の隧道跡が残っています。

アクセス

バス

熊本桜町バスターミナルより熊本バス辺場経由浜町行きに乗車し「霊台橋」バス停下車すぐ。
または、砥用ゆきに乗車し終点「砥用・学校前」下車、徒歩30分（2.5㎞）。

自動車

九州自動車道松橋インターチェンジより国道218号経由で40分ほど（19㎞）。
国道218号沿いにあり、周囲は10台ほど停められる駐車場、トイレ、売店、展望台などが整備されています。

周辺情報

霊台橋周辺には、眼鏡橋など、他にも見どころがあります。また、くまもとアートポリス'92既存選定建築物にも選定されています。

霊台橋