露の五郎

「露の五郎」（つゆのごろう）は、上方落語において代々受け継がれる名跡です。現在は次の襲名者を待つ空き名跡となっています。

この名跡を継いだ主な人物として、本項で詳しく述べる初代露の五郎、後に二代目露の五郎兵衛を襲名した二代目露の五郎がいます。さらに、二代目の門下である露の團四郎が、2025年10月に三代目露の五郎を襲名することが決定しています。

初代 露の五郎

初代露の五郎は、1893年4月8日に生まれ、1936年2月19日に44歳でその生涯を終えました。本名を簱野米三郎といいます。

彼の父は「羅山」と号する冠句の宗匠であり、米三郎には茶道のような由緒正しい芸事を学ばせたいと考えていました。しかし、幼い頃から寄席や芝居の世界に強い関心を示していた息子を見て、最終的にはその道を歩ませることを認めました。

最初は五代目林家正三に弟子入りし、子役として「林家三平」を名乗ります。1900年1月、わずか7歳で大阪文芸館の高座に上がり、プロとしての第一歩を踏み出しました。成長するにつれて色白の美男子として知られるようになり、17歳の時には歌舞伎役者である四代目中村芝雀（のちの三代目中村雀右衛門）の門下に入り、活動の場を歌舞伎の世界にも広げました。

歌舞伎の世界で経験を積んだ後、再び落語界へと戻ります。そして、上方落語の祖とされる露の五郎兵衛にあやかる形で、初代露の五郎を襲名しました。

歌舞伎や踊りの世界で培った経験は、彼の芸に深みを与えました。特に、芝居噺や山村流、若柳流といった古典的な踊りを得意としました。中でも、浄瑠璃の「槍さび」に合わせて舞う「丸橋忠彌」は、当時の観客から絶品と評されるほどの高い評価を得ていました。また、歌舞伎や踊りの素養を生かし、役者が演じる鹿芝居でもその才能を発揮しました。

しかし、その活躍は長くは続きませんでした。1936年、京都の富貴席に出演中、急性肺炎に倒れ、惜しくも44歳という若さで亡くなりました。

初代露の五郎の芸は、いくつかのSPレコードに残されています。『質屋芝居』『仇討曽我』『座頭殺し』『芝居噺し』といった演目が確認されており、これらはいずれも彼の得意とした芝居噺でした。

彼の短いながらも輝かしい生涯は、上方落語史において、他の分野の芸を取り込み自身の芸を磨いた稀有な存在として記憶されています。

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