青少年のための管弦楽入門

青少年のための管弦楽入門

『青少年のための管弦楽入門』（せいしょうねんのための かんげんがくにゅうもん、The Young Person's Guide to the Orchestra）は、英国の作曲家ベンジャミン・ブリテン（1913-1976）によって1945年に作曲された管弦楽曲です。セルゲイ・プロコフィエフの交響的物語『ピーターと狼』と並び、特に若い世代に向けてオーケストラの仕組みや楽器を知るための入門的作品として世界的に知られています。

概要

本作は、特徴的な標題を持つ教育的な目的で書かれた作品です。英国放送協会（BBC）が制作した音楽教育映画「オーケストラの楽器」（Instruments of the Orchestra）のために委嘱され、1945年12月半ばから年末にかけて短期間で作曲されました。映画は翌年11月に公開され、マルコム・サージェントが指揮とナレーション、ロンドン交響楽団が演奏を担当しました。ただし、映画公開に先立つ同年10月15日には、同じくサージェントの指揮、エリック・クロージャーの解説、リヴァプール・フィルハーモニック管弦楽団の演奏により初演が行われています。

正式な曲名は『青少年のための管弦楽入門 - パーセルの主題による変奏曲とフーガ 作品34』といい、その名の通り、17世紀イギリスの作曲家ヘンリー・パーセル（1659-1695）の劇付随音楽『アブデラザール』から「ロンド」の旋律を主題として用いた変奏曲とフーガの形式をとっています。各変奏ではオーケストラの多様な楽器が独奏的に活躍し、それぞれの音色や特性が紹介されます。曲の性格上、非常に親しみやすいメロディと平明な音楽語法が用いられています。

演奏時間は通常15分から20分程度ですが、ブリテン自身がロンドン交響楽団を指揮した録音では、解説なしで約16分半です。調性はニ短調から最終的にはニ長調へと転じます。

楽曲構成

楽曲は大きく分けて、パーセルの主題を提示する部分、主題に基づく変奏が展開される部分、そしてオリジナルの主題を用いたフーガ、そしてパーセルの主題とフーガが結びつくコーダから構成されます。

主題の提示 (Allegro maestoso e largamente)

まず、ヘンリー・パーセルの威厳ある主題が、オーケストラ全体のトゥッティに始まり、セクションごとに提示されます。提示順は以下の通りです。

1. トゥッティ（管弦楽全体）
2. 木管楽器群
3. 金管楽器群
4. 弦楽器群
5. 打楽器群
6. トゥッティ（再び）

このセクションごとの提示により、それぞれの音色や響きの違いを聴き取ることができます。

変奏

主題が提示された後、オーケストラを構成する個々の楽器、あるいは楽器群が順番に主題を変奏していきます。各変奏は、その楽器の特性をよく表したパッセージで書かれています。変奏の登場順は以下のようになっています。

1. フルートとピッコロ (Presto)
2. オーボエ (Lento)
3. クラリネット (Moderato)
4. ファゴット (Allegro alla marcia)
5. ヴァイオリン (Brillante: alla polacca)
6. ヴィオラ (Meno mosso)
7. チェロ
8. コントラバス (Cominciando lento ma poco a poco accel. al Allegro)
9. ハープ (Maestoso)
10. ホルン (L'istesso tempo)
11. トランペット (Vivace)
12. トロンボーンとチューバ (Allegro pomposo)
13. 打楽器（ティンパニ、大太鼓・シンバル、タンブリン・トライアングル、小太鼓・ウッドブロック、シロフォン、カスタネット・タムタム、むちの順に紹介）(Moderato)

それぞれの楽器が、その音域や技巧的な特徴を活かした変奏を奏でます。

フーガ (Allegro molto)

変奏部が終わると、ブリテン自身が作曲した新しい主題によるフーガが始まります。変奏で紹介された楽器が、ピッコロからコントラバス、ハープ、金管楽器、打楽器へと、おおよそ同じ順序で次々と加わっていき、主題を奏でます。フーガがクライマックスに達すると、冒頭に提示されたパーセルの主題が壮大に奏でられ、先に展開されてきたフーガと組み合わさって二重フーガとなり、曲は華やかなコーダへと向かい、ニ長調で力強く終結します。

解説（ナレーション）

本作は、演奏と並行して行われる解説（ナレーション）を伴うことが多い点も特徴です。この解説文は、ブリテンの友人であり、本作の初演でもナレーターを務めたエリック・クロージャーによって書かれました。解説は、それぞれの変奏で紹介される楽器について分かりやすく説明する役割を果たします。ブリテンは解説付きと解説なしのどちらでも演奏できるよう作曲しており、コンサートでは解説なしで演奏されることもあります。日本語版では、栗原小巻、小澤征爾、三枝成彰などがナレーションを担当した録音が存在します。

編成

編成は以下の通りです。

• - フルート3（うち1はピッコロ持ち替え）
• - オーボエ2
• - クラリネット2（B♭管およびA管）
• - ファゴット2
• - ホルン4（F管）
• - トランペット2（C管）
• - トロンボーン3
• - チューバ1
• - ティンパニ
• - 打楽器群（シンバル、トライアングル、大太鼓、小太鼓、タムタム、タンバリン、シロフォン、ウッドブロック、カスタネット、むち）
• - ハープ
• - 弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

関連作品

「青少年のための管弦楽入門」と同様に、子供や若い世代を対象とした音楽教育的な要素を持つクラシック音楽作品としては、以下のようなものが挙げられます。

• - セルゲイ・プロコフィエフ：交響的物語『ピーターと狼』
• - カミーユ・サン＝サーンス：組曲『動物の謝肉祭』

これらの作品と共に、オーケストラの豊かな響きや個々の楽器の魅力を知るための優れた導入となっています。

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