音の強さ

音の強さ（音響インテンシティ）

音の強さ、または音響インテンシティ（sound intensity）は、音場内の特定の位置における音響エネルギーの流れを表す物理量です。具体的には、ある点において、単位面積を単位時間あたりに通過する音響エネルギーの量を指し、単位は[W/m²]（ワット毎平方メートル）で表されます。これは音響エネルギー束密度や音響パワー密度と同義であり、音のエネルギーがどれだけの強さで伝わっているかを示す重要な指標となります。

音響インテンシティの定義

音響インテンシティは、音圧と粒子速度という二つの要素から定義されます。音波は媒質（空気など）を振動させながら伝播しますが、この振動の速さ（粒子速度）と、その振動が引き起こす圧力（音圧）の積を時間平均することで、音響インテンシティが求められます。これはベクトル量であり、音のエネルギーがどの方向にどれだけ伝わっているかを示すことができます。

音場と音圧、粒子速度

音波が伝わる空間を音場（sound field）といいます。音場を記述する基本的な要素として、音圧と粒子速度があります。これらの要素は、波動方程式によって関連付けられており、音波の伝搬現象を理解する上で不可欠です。波動方程式は、音圧をp、粒子速度をu、速度ポテンシャルをφとしたとき、以下のように表されます。



p = -ρ(∂φ/∂t)





u = -∇φ



ここで、ρは媒質の密度、cは音速を表します。

インピーダンス

自由空間における平面波の場合、音圧pと粒子速度uの間には、p = ρcuという関係が成り立ちます。ここでρcは比音響インピーダンス（または音響インピーダンス密度）と呼ばれ、単位は[Pa・s/m]です。比音響インピーダンスは媒質の特性を表す値であり、媒質が音波の伝搬をどれだけ妨げるかを示します。

音響エネルギー密度

音響エネルギー密度（acoustic energy density）は、音場内に存在する単位体積あたりの音響エネルギーを指し、単位は[J/m³]（ジュール毎立方メートル）です。これは、音波によって媒質に蓄えられるエネルギーの量を示し、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和として表されます。定常音の場合、音響エネルギー密度Eは、音圧の実効値p_rmsと粒子速度の実効値u_rmsを用いて、E = (1/2)ρu_rms² + p_rms²/2ρc²　と表すことができます。平面波の場合は、E = p_rms²/ρc²　となります。

音響インテンシティの算出

音響インテンシティは、音圧と粒子速度の積の時間平均で求められます。音圧を交流電圧に、体積速度を交流電流に対応させると、電力に対応するのが音響パワーであり、音響インテンシティは単位面積あたりの音響パワーを表すベクトル量です。

時間平均された音響インテンシティIは、時間Tに対して以下のように表されます。



I = (1/T)∫[0,T] pu dt



ある方向aにおける音響インテンシティI_aは、その方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する音響エネルギーに等しく、粒子速度のa方向成分u_aを用いて、I_a = pu_a と表されます。

自由空間を伝搬する平面波の場合、音響インテンシティの大きさは、音圧の実効値p_rms、媒質の密度ρ、音速cを用いて、I = p_rms²/ρcと表されます。これは音圧の二乗に比例し、音響エネルギー密度Eと音速cの積に等しくなります。また、球面波の場合も、音響インテンシティの大きさは同様に求められますが、音源からの距離の二乗に反比例するという特徴があります。

音響パワー

音響パワーは、音場内の特定の面を単位時間あたりに通過する音響エネルギーであり、単位は[W]（ワット）です。音響パワーは、音響インテンシティと面積の積として計算されます。ある面Sを通過する音響パワーWは、以下のように表されます。



W = ∫ I ・dS




ここで、u・dSは体積速度（単位は[m³/s]）と呼ばれます。また、平面波音場では、音圧の実効値p_rmsと、面Sの法線ベクトルと音の伝搬方向のなす角θを用いると、W = p_rms u S cos(θ)と表されます。

拡散音場の音響インテンシティ

拡散音場（diffuse sound field）は、音響エネルギー密度が均一で、あらゆる方向から等確率で音が伝わる音場です。拡散音場では、ある点から見て、単位立体角の範囲から到来する音響インテンシティは、cE/4π となります。全方向からの音響インテンシティの総和はcEに等しくなります。ただし、ベクトル量である音響インテンシティを考えると、拡散音場では平均的な音響インテンシティの大きさは0になります。

壁面に入射する音響インテンシティ

拡散音場において、壁面の単位面積に対して単位時間に入射する音響エネルギーは、I = cE/4と表されます。これは、壁面に入射する音の方向の成分を考慮した結果です。拡散音場では、壁面に入射する音響インテンシティは、空間上のある点に全方向から入射する音響エネルギーの1/4となります。

音の強さのレベル

音の強さを、基準値との比の常用対数で表現した量を、音の強さのレベルまたは音響インテンシティレベルといいます。単位はデシベル (dB) であり、基準値は最小可聴音 (I_0 = 10^-12 [W/m²]) です。音の強さI [W/m²] に対する音の強さのレベルは、以下のように表されます。



L_I = 10 log10(I/I_0) [dB]




音響インテンシティは、音のエネルギーの流れを定量的に捉える上で重要な概念であり、音響設計や騒音対策など、様々な分野で活用されています。

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