飯田新七

飯田新七：高島屋の礎を築いた近江商人

飯田新七（いいだ しんしち、1803年 - 1874年）は、江戸時代後期に活躍した商人であり、現在の百貨店髙島屋の礎を築いた人物として知られています。彼は近江商人の飯田家の婿養子となり、その才能を発揮しました。

生い立ちと高島屋との出会い

新七は、享和3年（1803年）に越前国敦賀（現在の福井県敦賀市）で、中野宗兵衛の子として生まれました。幼名は鉄次郎と名付けられ、文化11年（1814年）に京都の呉服商である角田呉服店に丁稚奉公に出る際に、新七と名を改めました。諱は宏遠といいます。

一方、近江国高島郡南新保村（現在の滋賀県高島市今津町南新保）出身の飯田儀兵衛は、京都の烏丸松原上ル（現在の京都市下京区）で米穀商「高島屋」を営んでいました。儀兵衛には娘の「秀」が一人おり、後継者を求めていました。そんな折、儀兵衛は角田呉服店で働く新七の仕事ぶりに感銘を受けます。角田呉服店が倒産したのを機に、文政11年（1828年）に新七を娘婿として迎え入れました。

古着商「高島屋」の開店

新七は高島屋に入ると、翌文政12年（1829年）に米屋高島屋の隣に分家という形で家を構え、天保元年（1831年）には借家に移り、天保2年（1831年）に古着商「高島屋」を開業しました。この時、商標には現代の高島屋と同様の「丸に高の字」が用いられました。

開店当初は資金繰りに苦労しましたが、妻「秀」が婚礼衣装を売りに出すことを提案。その衣装を飾ったところ、多くの客が訪れるようになり、店は活気づきました。新七は、当時の質素倹約を求める社会情勢から、新しい着物よりも古着の需要が高いことに着目し、古着商を始めたのです。また、開店後すぐに近隣に同様の店ができた際には、「誰よりも早く店を開け、近所を清掃する」ことを徹底し、「早起きで働き者の店」という評判を得て、信用を築きました。

商いの心得「四綱領」

天保2年（1831年）は「お蔭参り」の年にあたり、新七は「オカゲニテヤスウリ（おかげにて安売り）」という言葉を掲げ、商いの基本姿勢を忘れないようにしました。また、創業時に定めた「正札」「正道」「平等の待遇」という三つの掟を元に、以下の四つの規則（四綱領）を定めました。

第一義: 確実なる品を廉価にて販売し、自他の利益を図るべし
第二義: 正札掛値なし
第三義: 商品の良否は、明らかに之を顧客に告げ、一点の虚偽あるべからず
第四義: 顧客の待遇を平等にし、貧富貴賎に拠りて差など附すべからず

これらの規則は、顧客を大切にし、誠実な商いを行うという新七の信念を表しています。誠実な仕事ぶりは評判を呼び、高島屋は繁盛しました。資金が必要になった際には、呉服商「菱屋」の青井孫兵衛が支援を行い、新七はその恩を生涯忘れなかったと言われています。

店舗拡張と隠居

天保4年（1833年）には、借家であった店舗を買い取り、奉公人を雇い、土蔵を築造するなど、事業を拡大しました。新七夫婦は質素な生活を送りながらも、奉公人を大切にし、家族のように接していました。

嘉永4年（1851年）に娘の「歌」に婿を迎え、嘉永5年（1852年）に新七は隠居し、婿が2代目飯田新七を襲名しました。隠居後、新七は「餘慶堂」と名付けた隠居所を設け、明治7年（1874年）に生涯を閉じました。

古着商「高島屋」は、その後百貨店「高島屋」や商社「高島飯田」（後の丸紅）へと発展し、新七の精神は今も受け継がれています。

栄典と子孫

明治35年（1902年）には、勲六等瑞宝章が贈られました。子孫も多く、様々な分野で活躍しています。

飯田新七は、近江商人の精神を受け継ぎ、誠実な商いで高島屋の礎を築いた人物として、今も語り継がれています。

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