首都圏国電暴動

首都圏国電暴動（1973年）

1973年（昭和48年）4月24日、首都圏の国鉄（現JR）の駅で同時多発的に発生した大規模な暴動事件です。国鉄労働組合（国労）と国鉄動力車労働組合（動労）が実施していた順法闘争が、利用客の不満を増大させ、暴動へと発展しました。事件当時は「4･24騒動」「4･24事件」とも呼ばれていました。

事件の背景

1973年の春闘において、国労と動労は、運転安全規範などの諸規則を厳格に遵守するという順法闘争を展開しました。これは、規則を過度に遵守することで列車の運行を遅延させ、経営側に対抗する戦術でしたが、利用客からは強い批判と反発を招きました。

3月には、高崎線上尾駅などで、順法闘争によるダイヤの乱れに激怒した乗客が暴動を起こす「上尾事件」が発生しています。この事件を受けて動労は一時的に順法闘争を中止しましたが、労使間の交渉は進展せず、4月には再び順法闘争を再開しました。

事件の概要

4月24日も、順法闘争の影響で国鉄線のダイヤは大幅に乱れていました。特にこの日は、4月27日の交通ゼネストを控えており、順法闘争が強化されていたため、混乱はさらに深刻でした。

赤羽駅での暴動

最初に暴動が発生したのは赤羽駅でした。東北・高崎線下りホームでは、列車の遅延に対する利用客の不満が高まっていました。青森行きの急行「津軽1号」が大幅に遅れて到着し、しかも超満員であったため、乗車できない乗客の怒りが爆発しました。

乗客は、停車中の上り中距離電車を破壊し始め、運転士を引きずり下ろすなどの行為に及びました。その後、「津軽1号」の機関車を取り囲み、窓ガラスを割るなどの破壊行為を行いました。さらに、京浜東北線の電車も信号機故障で運転見合わせとなり、乗客が線路上を歩いて駅に向かう事態となりました。

赤羽駅は6,000人もの乗客で溢れかえり、駅長室に押し寄せて暴れるなど、暴動は激化しました。京浜東北線の車内では発煙筒が燃やされ、放火騒ぎまで発生しました。赤羽駅での運行停止は、山手線など他の路線にも影響を及ぼし、首都圏の国電は次々と運行を停止しました。

他の駅への波及

赤羽駅での暴動は、上野駅、新宿駅など、首都圏の主要駅に波及しました。

上野駅: 発車しない電車に怒った乗客が投石を始め、運転士を連行し、発炎筒を焚いて車内に放火するなど、駅は騒乱状態となりました。本屋改札事務室や切符売り場も破壊され、駅員は職務を放棄し、駅は無人状態となりました。数百人の負傷者が出ました。
新宿駅: 山手線の運行が停止され、振替輸送の案内が出ると、利用客が駅長事務室に押し寄せました。西口の料金精算所や売店が襲われ、東口では鉄道公安室に放火する騒ぎに発展しました。暴動参加者は最大2万人に達し、数百名の負傷者が出ました。

この他、渋谷駅、秋葉原駅、有楽町駅など、計38駅で破壊や放火などの暴動事件が同時多発しました。群衆の数は総計で3万2,000人を超え、一部の暴徒は切符や現金を略奪しました。

これらの暴動により、鉄道施設内外で多数の負傷者が発生し、200台以上の救急車が出動しました。病院は負傷者で溢れかえり、医療従事者への抗議や乱闘も発生するなど、暴動は鉄道施設外にも波及しました。

事件の影響

警視庁は機動隊を最大動員し、投石などの破壊行為の阻止と、駅員・車両の保護を指示しました。しかし、同時多発した騒乱には有効な対策を打てず、群衆や通行人など数千人以上の負傷者が出ました。

国労と動労は、混乱を受けて順法闘争の中止を決定しましたが、時すでに遅く、首都圏の鉄道は全面停止となり、翌日も大幅な間引き運転を強いられました。

東北線や上越線など、上野駅を終着とする特急・急行も、遅延や運休の影響を受けました。埼玉県内や栃木県内では、列車が途中駅で足止めとなり、乗客が車内で一夜を過ごす事態となりました。

首都圏の交通機関は麻痺状態となり、営団地下鉄（現東京メトロ）や京王帝都電鉄（現京王電鉄）などが終夜運転を実施しましたが、混乱は収まりませんでした。

25日未明までに、窃盗や放火などの罪で138人が逮捕されました。少なくとも国鉄職員、群衆を含めて2,000人以上が負傷したと見られています。

事件の損害

国鉄の損害額は、車両、建物、電気機械設備、自動券売機などの被害総額で9億6000万円に達しました。また、貨物輸送も大幅に減少し、生活必需品の輸送にも影響が出ました。

上野駅、神田駅、有楽町駅のみどりの窓口は営業不能となり、他の駅で指定券類を販売することになりました。

事件後の見解

二階堂進内閣官房長官は、この事件を「国民の迷惑を顧みない違法な争議行為」であり、「民主主義体制そのものへの挑戦」と非難しました。

国労は、「乗客の混乱は国労、春闘共闘の春闘を破壊しようとし、闘争の妨害をねらったものである」と主張しました。

事件の要因と対策

事件の要因としては、労組の過剰な闘争、不適切な混雑対策、情報伝達の不備などが挙げられます。

対策としては、異常時の情報収集・提供能力の強化、代行輸送力の確保、群集心理の研究などが提言されました。

国鉄は事件後、「通信運用体系近代化計画」を策定し、電信中継業務の自動化、データ交換装置の導入、電話の自動交換化推進、電話情報案内の強化などを進めました。

教訓

首都圏国電暴動は、労使紛争が社会に大きな混乱をもたらすことを示した事件でした。鉄道会社は、労働組合との対話を通じて円満な関係を築き、利用客への情報提供を徹底するなど、再発防止に努める必要がありました。

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