香港の警察

香港警務処（Hong Kong Police Force）について

香港警務処は、香港特別行政区政府保安局の管轄下にある警察組織です。香港の治安維持を担い、市民生活に深く関わっています。香港警察のトップである警務処処長は、香港特別行政区行政長官の指名に基づき、中華人民共和国国務院が任命します。

歴史

香港警察の歴史は、1841年にイギリス海軍が香港に上陸したことに始まります。当初は治安維持だけでなく、戸籍事務や出入国管理、消防、郵便など幅広い業務を担っていました。設立当初は、イギリス帝国各地から警察官を募集し、出身地によって制帽が異なっていたという興味深い歴史もあります。

第二次世界大戦後には女性警察官の採用も始まりました。1967年の香港暴動では、催涙ガスと盾を使ったケトリング戦術を世界で初めて使用し、この功績により「Royal（王立）」の称号を授与され、「皇家香港警察」と称されるようになりました。

しかし、かつては警察官と黒社会との癒着が問題となり、「黒警」という言葉も生まれました。この汚職問題を解決するために、1974年には廉政公署が設置され、警察とは独立した汚職取締りが行われました。その後、香港人警察官の割合が増加し、1989年には初の香港人警察長官が就任しました。

2001年から2006年にかけて発生した徐歩高事件は、香港警察史上最悪の不祥事とされ、香港社会に大きな衝撃を与えました。

近年の動向

2012年には、アジアで初めて警察向けウェアラブルカメラであるボディカメラを導入しましたが、プライバシーの問題も指摘されました。2014年と2019年の香港民主化デモでは、警察の過剰な実力行使が批判を浴び、市民の警察に対する不信感が高まっています。アムネスティ・インターナショナルは、デモ参加者に対する拷問に等しい人権侵害を報告しています。デモ鎮圧にあたる警察官の中には、識別番号を身につけず、顔を隠す者も多く、中国人民武装警察部隊が香港警察を装っている疑惑も浮上しています。また、デモ参加者のSNSを検閲し、顔認識技術で監視しているとの報道もあります。

中国政府は一貫して香港警察の取り締まりを支持しており、デモ鎮圧に関わった警察官が中国政府から称賛される事例も見られます。

組織

香港警務処は、処長、副処長（3名）をトップとし、5つの部門に分かれています。

甲部門（行動処）：警察の作戦上の案件を調整します。陸上での作戦活動と支援活動は、地域別に6総区に分割されています。海上の案件は水上警察が担当します。
乙部門（刑事及保安処）：犯罪捜査、テロ対策、要人警護などを担当します。
丙部門（人事及訓練処）：人事、教育訓練などを担当します。
丁部門（監管処）：通信機器、情報技術、内部監察などを担当します。
戊部門（財務、政務及策画処）：財務、政策企画などを担当します。

また、各総区には「総部」が置かれ、管理部門、作戦部門、緊急展開部隊、交通・犯罪捜査隊などが配置されています。

部隊

香港警察には、以下のような特殊部隊があります。

警察機動部隊（PTU）：緊急時の即応予備兵力。制服の青いベレー帽から「藍帽子」とも呼ばれます。
特別任務連（SDU）：通称「飛虎隊」。テロ対策や人質救出などの特殊作戦を担当します。
特殊戦術小隊（STS）：通称「速龍隊」。暴動鎮圧などを行います。
爆炸品處理組（EOD）：爆発物処理を担当します。

装備

植民地時代から欧米水準の装備を導入していましたが、近年は中国製装備の比率が増加しています。これは、香港の民主化デモ以降、欧米諸国が装備の供給を停止したためです。

階級

香港警察の階級は以下の通りです。（太字は首長級）

処長
副処長
高級助理処長
助理処長
総警司
高級警司
警司
総督察
高級督察
督察
見習督察
警署警長
警長
高級警員
警員

まとめ

香港警察は、長い歴史の中で香港の治安維持に貢献してきましたが、近年は民主化デモへの対応で市民からの信頼を失いつつあります。警察組織の改革や市民との信頼関係構築が今後の課題と言えるでしょう。

もう一度検索