馬上のチャールズ1世とサン・アントワーヌの領主の肖像
『馬上のチャールズ1世とサン・アントワーヌの領主の肖像』は、バロック期のフランドル出身の画家アンソニー・ヴァン・ダイクが1633年に制作した油彩画です。この作品は、イングランド国王チャールズ1世が馬に乗り、彼の馬丁長であったサン・アントワーヌの領主ピエール・アントワーヌ・ブルダンが付き従う様子を描いています。ヴァン・ダイクが描いた最初のチャールズ1世の騎馬肖像画であり、現在はロイヤル・コレクションとしてウィンザー城のクイーンズ・ギャラリーに所蔵されています。
チャールズ1世は、1600年にイングランドで生まれ、ジェームズ1世とアン・オブ・デンマークの息子でした。一方、ピエール・アントワーヌ・ブルダンは、1603年にフランス国王アンリ4世からジェームズ1世に、ヘンリー・フレデリック・ステュアート王子への贈り物として6頭の馬とともに派遣されました。ブルダンは最初はヘンリー王子に仕えましたが、ヘンリー王子が若くして亡くなった後は、チャールズ1世の乗馬教師および馬丁長を務めました。
チャールズ1世は、1625年に父ジェームズ1世の死により即位しましたが、その治世は困難を極めました。カトリック教国との関係は不安定であり、議会との対立も激化し、1629年以降は11年間に及ぶ議会を無視した専制政治を行いました。この対立はイングランド内戦へと発展し、最終的にはチャールズ1世は処刑されることとなりました。
この作品は、ヴァン・ダイクがチャールズ1世の首席宮廷画家に任命された翌年に制作されました。肖像画家としてのヴァン・ダイクの主要な作品の一つであり、イギリス絵画に革命をもたらし、スチュアート朝の宮廷のイメージを現代に伝える重要な役割を果たしています。
チャールズ1世は、筋肉質な白馬に乗り、騎士道的な騎士および君主として描かれています。王はパレード用の甲冑を身に着け、その上にはガーター騎士団の青い帯を掛け、軍の指揮を象徴する元帥杖を持っています。背景には凱旋門があり、緑色のシルクのドレープが垂れ下がっています。作品は、過去に類を見ないほどの大画面で描かれており、その起源はアレクサンドロス大王やマルクス・アウレリウスまで遡る騎馬肖像画の伝統を受け継いでいます。チャールズ1世は支配者、戦士、騎士として卓越した滑らかさで描かれており、議会を無視した統治時代を暗示しているかのように、画面の中央にほぼ一人で描かれています。
チャールズ1世の身長の低さを隠すために、ルーヴル美術館所蔵の『狩猟場のチャールズ1世』のように下から見上げる構図が用いられています。画面右には、チャールズ1世の乗馬教師であるピエール・アントワーヌ・ブルダンが立っており、聖ラザロ騎士団のリボンを首に巻いています。彼はチャールズ1世の兜を持ち、王を見上げる様子が描かれており、その身振りと落ち着きはバロック的な動きに満ちた場面に安定感をもたらしています。画面左下には、ステュアート朝の大きな紋章が描かれており、イングランド、フランス、スコットランド、アイルランドの紋章が組み合わされています。この紋章は、イギリスの王権の正当性と権威を象徴しています。
ヴァン・ダイクは、セント・ジェームズ宮殿のギャラリーの最後に設置することを考慮してこの構図をデザインし、肖像画に演劇的な効果を与えようとしました。
ヴァン・ダイクは、この作品以前にも騎馬像を正面から捉えた肖像画を制作しています。彼の作品には『グロッポリ侯爵アントン・ジュリオ・ブリニョーレ＝サーレ騎馬像』や『第3代アイトナ侯爵フランシスコ・デ・モンカダ騎馬像』があります。チャールズ1世とヴァン・ダイクはティツィアーノの作品を称賛し、収集していましたが、これらの騎馬肖像画は、むしろヴァン・ダイクの師であるピーテル・パウル・ルーベンスが1603年に制作した『レルマ公騎馬像』から大きな影響を受けています。ヴァン・ダイクはルーベンスの作品を見る機会はなかったものの、チャールズ1世は皇太子時代にスペインを訪れた際にこの作品を見ており、ヴァン・ダイクへの発注の際にインスピレーションを与えたと考えられています。
戴冠した国王の紋章と武装した王を囲む凱旋門は、イギリスの統治者としてのチャールズ1世のイメージを強調しています。王の洗練された顔立ち、ゆるやかな髪、甲冑とガーター騎士団の帯は、騎士道的な騎士の印象を与えます。熟練した馬術は美徳の典型と見なされ、凱旋門によって表されたアーチ状の道を通過することは、勝利を収めた国家が都市に入城する伝統と、平和、幸福、繁栄の新時代の幕開けを暗示しています。また、強力な馬を巧みに操ることは、御しがたい王国を支配していることを象徴しています。
この肖像画は、チャールズ1世のために描かれ、1639年にセント・ジェームズ宮殿で記録されました。1649年にチャールズ1世が清教徒革命によって処刑され、ロイヤル・コレクションが競売にかけられた際、150ポンドと評価されました。その後、作品は「教皇」に売却され、フランドルの画家レミギウス・ヴァン・リーンプットによって購入されました。しかし、1660年の王政復古によりチャールズ2世が復位すると、肖像画は法的手続きを通じてヴァン・リープットから回収され、1666年にハンプトン・コート宮殿で記録されました。その後、18世紀の大半はケンジントン宮殿のキングス・ギャラリーで、1790年にはバッキンガム宮殿で短期間展示された後、1805年にウィンザー城に移されました。1819年には画家ウィリアム・ヘンリー・パインによって展示風景が描かれました。
ヴァン・ダイクは、1635年に複製を制作しています。このバージョンは、現在、ハイクレア城の大食堂で見ることができます。
この作品は、ヴァン・ダイクの卓越した肖像画技術と、バロック美術の様式が融合した傑作であり、17世紀のイギリス宮廷の威厳と権力を象徴する重要な作品として、今日までその価値を保っています。
人物
チャールズ1世は、1600年にイングランドで生まれ、ジェームズ1世とアン・オブ・デンマークの息子でした。一方、ピエール・アントワーヌ・ブルダンは、1603年にフランス国王アンリ4世からジェームズ1世に、ヘンリー・フレデリック・ステュアート王子への贈り物として6頭の馬とともに派遣されました。ブルダンは最初はヘンリー王子に仕えましたが、ヘンリー王子が若くして亡くなった後は、チャールズ1世の乗馬教師および馬丁長を務めました。
チャールズ1世は、1625年に父ジェームズ1世の死により即位しましたが、その治世は困難を極めました。カトリック教国との関係は不安定であり、議会との対立も激化し、1629年以降は11年間に及ぶ議会を無視した専制政治を行いました。この対立はイングランド内戦へと発展し、最終的にはチャールズ1世は処刑されることとなりました。
作品
この作品は、ヴァン・ダイクがチャールズ1世の首席宮廷画家に任命された翌年に制作されました。肖像画家としてのヴァン・ダイクの主要な作品の一つであり、イギリス絵画に革命をもたらし、スチュアート朝の宮廷のイメージを現代に伝える重要な役割を果たしています。
チャールズ1世は、筋肉質な白馬に乗り、騎士道的な騎士および君主として描かれています。王はパレード用の甲冑を身に着け、その上にはガーター騎士団の青い帯を掛け、軍の指揮を象徴する元帥杖を持っています。背景には凱旋門があり、緑色のシルクのドレープが垂れ下がっています。作品は、過去に類を見ないほどの大画面で描かれており、その起源はアレクサンドロス大王やマルクス・アウレリウスまで遡る騎馬肖像画の伝統を受け継いでいます。チャールズ1世は支配者、戦士、騎士として卓越した滑らかさで描かれており、議会を無視した統治時代を暗示しているかのように、画面の中央にほぼ一人で描かれています。
チャールズ1世の身長の低さを隠すために、ルーヴル美術館所蔵の『狩猟場のチャールズ1世』のように下から見上げる構図が用いられています。画面右には、チャールズ1世の乗馬教師であるピエール・アントワーヌ・ブルダンが立っており、聖ラザロ騎士団のリボンを首に巻いています。彼はチャールズ1世の兜を持ち、王を見上げる様子が描かれており、その身振りと落ち着きはバロック的な動きに満ちた場面に安定感をもたらしています。画面左下には、ステュアート朝の大きな紋章が描かれており、イングランド、フランス、スコットランド、アイルランドの紋章が組み合わされています。この紋章は、イギリスの王権の正当性と権威を象徴しています。
ヴァン・ダイクは、セント・ジェームズ宮殿のギャラリーの最後に設置することを考慮してこの構図をデザインし、肖像画に演劇的な効果を与えようとしました。
図像的源泉
ヴァン・ダイクは、この作品以前にも騎馬像を正面から捉えた肖像画を制作しています。彼の作品には『グロッポリ侯爵アントン・ジュリオ・ブリニョーレ＝サーレ騎馬像』や『第3代アイトナ侯爵フランシスコ・デ・モンカダ騎馬像』があります。チャールズ1世とヴァン・ダイクはティツィアーノの作品を称賛し、収集していましたが、これらの騎馬肖像画は、むしろヴァン・ダイクの師であるピーテル・パウル・ルーベンスが1603年に制作した『レルマ公騎馬像』から大きな影響を受けています。ヴァン・ダイクはルーベンスの作品を見る機会はなかったものの、チャールズ1世は皇太子時代にスペインを訪れた際にこの作品を見ており、ヴァン・ダイクへの発注の際にインスピレーションを与えたと考えられています。
象徴性
戴冠した国王の紋章と武装した王を囲む凱旋門は、イギリスの統治者としてのチャールズ1世のイメージを強調しています。王の洗練された顔立ち、ゆるやかな髪、甲冑とガーター騎士団の帯は、騎士道的な騎士の印象を与えます。熟練した馬術は美徳の典型と見なされ、凱旋門によって表されたアーチ状の道を通過することは、勝利を収めた国家が都市に入城する伝統と、平和、幸福、繁栄の新時代の幕開けを暗示しています。また、強力な馬を巧みに操ることは、御しがたい王国を支配していることを象徴しています。
来歴
この肖像画は、チャールズ1世のために描かれ、1639年にセント・ジェームズ宮殿で記録されました。1649年にチャールズ1世が清教徒革命によって処刑され、ロイヤル・コレクションが競売にかけられた際、150ポンドと評価されました。その後、作品は「教皇」に売却され、フランドルの画家レミギウス・ヴァン・リーンプットによって購入されました。しかし、1660年の王政復古によりチャールズ2世が復位すると、肖像画は法的手続きを通じてヴァン・リープットから回収され、1666年にハンプトン・コート宮殿で記録されました。その後、18世紀の大半はケンジントン宮殿のキングス・ギャラリーで、1790年にはバッキンガム宮殿で短期間展示された後、1805年にウィンザー城に移されました。1819年には画家ウィリアム・ヘンリー・パインによって展示風景が描かれました。
ヴァリアント
ヴァン・ダイクは、1635年に複製を制作しています。このバージョンは、現在、ハイクレア城の大食堂で見ることができます。
この作品は、ヴァン・ダイクの卓越した肖像画技術と、バロック美術の様式が融合した傑作であり、17世紀のイギリス宮廷の威厳と権力を象徴する重要な作品として、今日までその価値を保っています。
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