馬乳酒

馬乳酒（ばにゅうしゅ）について

馬乳酒は馬の乳を利用して製造される発酵飲料であり、モンゴルやカザフスタンなど馬飼育が盛んな地域で広く飲まれています。この飲み物は、夏に作られることが多く、エタノール濃度は1%から1.5%程度で、酵母や乳酸菌の働きによって生成されます。馬乳酒の特長は、濃厚な乳白色と強い酸味で、酸は一般的にpH 4から5の範囲にあります。また、発酵過程で生成された二酸化炭素により、微発泡性も持ち合わせています。

名前の由来と地域差

モンゴル語では馬乳酒を「アイラグ（айраг）」と呼び、カザフスタンでは「クミス（кумыс）」といった名称でも知られています。カザフスタンでは、ラクダの乳から作られる乳酒を「インゲニーアイラグ（ингэний айраг）」と呼び、混同を避けるために馬乳を使ったものは「グーニーアイラグ（гүүний айраг）」と名付けられることが多いですが、この呼称も地域によって微妙に異なることがあります。

歴史的背景と飲用の文化

馬乳酒の起源は不明ですが、中央アジアにおいて馬が家畜化され始めた時期から自然に作られていたと考えられています。記録としては、マルコ・ポーロやチンギス・ハーンの伝説にも名を刻んでおり、第一次世界大戦中はグルカ兵が飲んでいたことから、結核予防の飲み物としての評価も受けていました。

モンゴルの文化においては、「赤い食べ物」と「白い食べ物」という概念が存在し、赤は肉製品、白は乳製品に該当します。馬乳酒は、ビタミンやミネラルを供給する大切な栄養源として位置付けられています。

この飲み物は、赤ちゃんから高齢者まで幅広い世代に消費されており、1日の摂取量は一般的に0.5から1.5リットルとされていますが、最大では4リットルに達することもあると言われています。特にモンゴルでは、食事代わりに飲まれることも少なくなく、丼のような容器で提供されることが一般的です。

製造プロセス

馬乳の搾乳は、母馬から約200ミリリットルと少量で行われ、その後、酒母を加えて攪拌することで発酵が始まります。発酵に必要な温度や時間によって、風味や香りが変わるため、作り手の経験が重要です。発酵の際、使用する容器には片手の中に収まるような小型の木製の桶や皮製の袋が多く使われます。

必要な酒母としては、すでに馬乳酒となったものや、ツリガネ科の草を利用したもの、さらには干しぶどうや白ワインなど、地域や家庭により異なる多彩な材料が使用されます。

健康的な効果

馬乳酒は健康への効果も注目を集めています。呼吸器系や消化器系の疾患、糖尿病や高血圧の予防に役立つと言われ、多数の伝統治療施設が存在しています。

研究によると、馬乳酒には多数の必須微量元素やアミノ酸が含まれており、ビタミンCの生成にも寄与しています。モンゴルの人々は野菜や果物を摂取できない時期も多いため、馬乳酒が貴重なビタミンC源となっています。さらに、腸内環境の改善や骨の健康にも寄与するとされ、多くの面で支持されています。

文化的意義

モンゴルの大相撲力士の元横綱朝青龍は、自身の健康や活力の源として馬乳酒を愛飲していたことでも知られています。秘伝の馬乳酒入りのちゃんこを楽しむ姿が記録されるなど、伝統的な飲み物としての地位を確立しています。

日本のカルピスは、この馬乳酒をヒントにして開発されたとも言われ、国際的にもその独自性が評価されています。旅行代理店では、日本人旅行者に対して馬乳酒の摂取に注意を喚起することもありますが、それでも多くの人々に愛され続けています。

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