馬仙峡

馬仙峡（ばせんきょう）

岩手県二戸市に位置する馬仙峡は、馬淵川の中流域に形成された、岩手県北を代表する景勝地の一つです。その名は「馬淵川沿いの仙境」という意味合いを込め、岩手県の初代民選知事を務めた国分謙吉によって名付けられたと伝えられています。一帯は豊かな自然に囲まれ、特に奇岩や断崖、清らかな流れが織りなす渓谷美が見どころとなっています。

概要

馬仙峡は、鳥越山とともに国の名勝に指定されている景勝地であり、訪れる人々に四季折々の美しい景色を提供します。代表的な見どころとしては、シンボルである男神岩と女神岩、そして雄大なスケールを誇る大崩崖などが挙げられます。渓谷沿いにはモミジ、カエデ、ブナ、ナラ、ナナカマドといった落葉樹が豊富に自生しており、春の新緑、そして特に秋の燃えるような紅葉の時期には、格別の彩りを見せ、多くの観光客で賑わいます。

男神岩と女神岩

馬仙峡の最も象徴的な存在として知られるのが、森厳な山林から天を突くようにそびえ立つ男神岩（比高180メートル）と、その隣に寄り添うように立つ女神岩（比高160メートル）です。これらの巨岩は、陸上に存在する夫婦岩としては全国でも最大級の規模を誇ります。二つの岩の足元近くには明神ヶ淵と呼ばれる淵があり、この地には古くから伝わる女神の悲恋の物語が語り継がれています。この伝説に想を得て小説を執筆した直木賞作家、渡辺喜恵子の歌碑が、物語の舞台となった明神ヶ淵の近くに建立されており、歴史と文化を感じさせる場所となっています。

大崩崖（おおほうがけ）

男神岩、女神岩と並ぶ馬仙峡のハイライトの一つが、圧倒的なスケールを誇る大崩崖です。これは、長い年月をかけて水の浸食作用によって一枚の硬い砂岩が削られ、大規模な山塊としてそのまま露出した壮大な地形です。その巨大さは見る者を圧倒し、二戸市内を南北に走るいわて銀河鉄道の車窓や、国道4号線からもその雄大な姿を遠望することができます。自然の力強い造形美を間近に感じられる場所です。

自然の美しさ

馬仙峡一帯は、多様な種類の落葉樹に覆われています。春には若葉が萌え出し、目に鮮やかな新緑の季節を迎えます。特に多くの人を惹きつけるのは秋です。モミジやカエデが燃えるような赤や黄色に色づき、ブナやナラ、ナナカマドなどもそれぞれの色合いを添え、渓谷全体が錦絵のような絢爛豪華な景色に変わります。清流のせせらぎを聞きながら、色とりどりの葉が織りなす自然の芸術を堪能することができます。

国の名勝に指定された馬仙峡は、地形的な特徴、自然の美しさ、そして地域に伝わる物語が一体となった、魅力あふれる景勝地として、多くの人々に親しまれています。

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