高山捷一

高山 捷一

高山 捷一（1915年1月2日 - 2017年3月5日）は、日本の海軍軍人、航空自衛官であり、卓越した航空工学者として日本の航空技術史に大きな功績を残した人物です。最終階級は海軍技術少佐、航空自衛隊空将に至りました。戦前は零戦や銀河といった名機の開発に深く関わり、戦後は防衛庁の技術幹部として、国産初の量産型ジェット機であるT-1の開発や、F-104J戦闘機の導入およびライセンス生産を主導するなど、激動の時代を通じて日本の航空技術の発展を牽引しました。

生涯

若き日々から海軍へ

1915年、名古屋に生まれた高山は、父の転勤に伴い幼少期を大阪で過ごします。北野中学校に進学しますが、父の失業により家計が苦しくなり、鴻池家からの奨学金を受けて卒業しました。その後、私塾「清和塾」を経て、再び奨学金を得て第三高等学校、東京帝国大学へと進みます。大学では工学部航空学科を選択しますが、これは特に航空への強い関心があったわけではなく、倍率の高さから不合格でも言い訳が立つと考えたためだといいます。しかし、在学中に海軍委託学生試験に合格し、1937年3月に東京帝国大学航空学科を卒業すると、同年4月には海軍造兵中尉に任官することとなりました。大学の同期には東條輝雄、内藤子生、渋谷巌といった顔ぶれが揃い、「花の十二年組」と称されていました。卒業論文では金属薄板構造の安定と強度について研究しています。

戦中における航空機開発

海軍に入隊した高山は、1938年6月から海軍航空技術廠飛行機部に配属され、試作機の審査や航空機の耐寒対策といった重要な業務に携わりました。1940年には、後の主力戦闘機となる十二試艦上戦闘機（零戦）の審査補佐を担当しています。漢口での零戦の初陣において、その防弾能力の脆弱性が指摘された際には、「駆逐艦に戦艦の装甲を施すようなもの」だとし、戦闘機は高速性と機動性を活かして戦うべきであるとの見解を示したと伝えられています。同年末には、双発爆撃機「銀河」の開発において、胴体、兵装、褌装といった主要部分の設計・試作を担当しました。1943年には海軍航空本部第二部第一課へ異動し、戦闘機や練習機の担当となり、翌年には軍需省の軍需官も兼務します。その後、少佐に昇進し、「紫電改」の開発審査にも深く関与するなど、日本の主要航空機開発にその足跡を残しました。

終戦を経て民間へ

1945年の敗戦を迎えると、高山は12月まで厚生省復員擁護局にて、旧海軍技術将校たちの再就職を支援する業務に従事しました。年末に大阪へ帰省し、しばらく休養するつもりでしたが、新円切替による資産価値の暴落により、生活のために働くことを余儀なくされます。1946年、大阪アルミニューム製作所に入社し、技術課長として生産効率の改善、新規受注獲得、新分野開拓、技術開発など多岐にわたる業務を手がけました。特に戦闘機の落下燃料用タンクなどの新たな受注を獲得し、民間企業でもその技術力と経営手腕を発揮しました。

防衛庁での国産機開発を主導

1954年10月、幹部候補募集の案内を受け、防衛庁に入庁し、二等空佐に任命されます。航空幕僚監部装備部技術第一課計画班長として、新たな航空機やエンジンの開発計画策定を担いました。翌年1月からは技術研究本部も兼務し、特に国産初の量産型ジェット練習機であるT-1の開発実務を推進することになります。T-1開発においては、当時強力な影響力を持っていた在日軍事援助顧問団（マーグJ）がアメリカ製練習機を推奨し、国産開発を軽視する姿勢を見せましたが、高山は日本の予算で開発する以上、マーグJにそれを左右する権限はないと主張し、自主開発路線を断固として押し進めました。また、国産ジェットエンジン開発についても、一時頓挫しかけていた計画を高山の強い主張により継続させ、練習機用エンジンの国内開発を実現しました。1957年には一等空佐、同年7月には航空幕僚監部技術第一課長に昇進し、F-86戦闘機の後継機選定にも関与しました。一度F11Fが選ばれた後、最終的にF-104が選定されることになると、1961年4月からはその技術審査を担当します。F-104のライセンス生産にあたり、必要な改善点の是正をロッキード社になかなか認めさせられなかった際も、毅然として正論を主張し、改善を促しました。その揺るぎない姿勢はアメリカ側からも認められ、ロッキード社の暗号表には日本人としては唯一「サーディン」という暗号名が与えられていたといいます。この時期には、F-104Jを水上戦闘機とする斬新なアイデアも考案しましたが、惜しくも実現には至りませんでした。その後、航空幕僚監部技術部長、技術研究本部航空開発官などを歴任し、1969年4月に防衛庁を退職しました。

退職後の貢献

防衛庁退職後も、高山は航空分野への情熱を持ち続けました。日本ミネチュアベアリングの非常勤顧問や、無給ながら日本航空工業会（SJAC）の非常勤嘱託を務め、特に航空機構造材のCFRP（炭素繊維強化プラスチック）化を熱心に推進しました。「炭素繊維複合材の航空機への適用化研究」に必要な予算を防衛庁から獲得し、防衛庁とSJACの契約の下、各メーカーが既存機のCFRP化や各種試験を行うことを支援しました。これは、戦前に零戦の軽量化に大きく貢献した超々ジュラルミンの経験から、材料の質的優位性が軍備の抑止力に繋がるという確信に基づいたものでした。この取り組みは、後にF-2戦闘機の主翼にCFRPが採用されるなど、日本の航空産業におけるCFRP技術の発展に大きく寄与しました。晩年までその探求心は衰えず、93歳を迎えるまで世界中の航空関連情報を収集し、技術レポートを作成するなど精力的に活動を続けました。90歳の時でも、月に400字詰め原稿用紙換算で400枚もの執筆を行うことがあったといいます。

功績と思想

高山捷一の最大の功績の一つは、創設間もない制度・組織が未整備な防衛庁において、一貫した確固たる思想に基づき、日本の航空機開発における基本的なルールや方式を整備し、自主開発路線の礎を築いたことにあります。当時の防衛庁は、政治状況やマスコミの批判、そしてアメリカからの強い干渉により、ともすれば方針が揺らぎがちでした。そのような状況下で、高山は戦前からの豊富な経験と民間企業での視点を併せ持ち、コストのみを重視した外国機の導入に偏るのではなく、自国での開発・生産能力の維持・向上こそが軍備の質的優位を生み出し、敵国への抑止力として機能すると強く主張しました。その論理的で筋の通った姿勢は、若い技官たちからの厚い信頼を得ました。また、技術の維持・向上には、伊勢神宮の式年遷宮になぞらえ、少なくとも10年程度の間隔で新機種を開発し、経験を積み重ねることの重要性や、他国技術への過度な依存がもたらすリスクなどを晩年に至るまで指摘し続けました。数多くの実機開発を主導した経験と、メーカー側の視点も理解していたことから、関係者への指導は非常に厳しいものであったとも伝えられています。

関与した主な航空機

高山捷一がその開発・審査等に深く関わった主な航空機には、戦中の以下のような機体があります。

十二試艦上戦闘機（零戦） - 審査補佐、トラブル対策（漢口への出張を含む）
銀河 - 胴体・兵装・褌装の設計・試作
紫電改 - 開発審査
乙2飛行艇、乙3潜水艦用小型水上機、乙4艦上爆撃機（彗星）

また、戦後の国産開発機としては、

T-1（国産量産ジェット練習機）
C-1（国産輸送機）
T-2（国産超音速練習機）
F-1（国産支援戦闘機）
P-2J（対潜哨戒機）
PS-1/US-1（飛行艇）

に関与しており、さらにF-104J戦闘機の選定やライセンス生産にも重要な役割を果たしました。

高山捷一は、日本の航空技術の黎明期から発展期にかけて、その知識、経験、そして強いリーダーシップをもって、数々の重要なプロジェクトを成功に導き、日本の防衛力整備と航空産業の発展に計り知れない貢献をした人物です。叙正四位に叙されています。

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