PS-1

PS-1 対潜飛行艇の詳細解説

PS-1は、日本の海上自衛隊が運用した対潜飛行艇であり、新明和工業（旧川西航空機）によって製造されました。この飛行艇は、当時の日本の技術力を結集して開発されましたが、運用面では数々の課題を抱えていました。ここでは、その開発経緯、特徴、運用状況、事故、そして派生型について詳しく解説します。

導入経緯

海上自衛隊は、当初アメリカから導入したロッキードP2V-7を対潜哨戒機として運用していましたが、救難能力の低さが課題となっていました。当時、救難活動は海上保安庁の管轄とされていましたが、国産機による救難活動を求める声が高まりました。

そのような状況下で、川西航空機（現・新明和工業）の技術者であった菊原静男は、1950年代から飛行艇の構想を練っていました。1957年には防衛庁に実験機の開発を提案し、これがきっかけとなり、新型飛行艇を対潜哨戒機として採用する計画が進められました。

実験機として、米軍から供与されたUF-1救難飛行艇（グラマンHU-16「アルバトロス」飛行艇）を改造したUF-XSが開発され、1962年から1966年まで飛行実験が行われました。この実験で得られたデータは、後のPS-1開発に大いに役立ちました。

対潜哨戒機としての開発は、当時の技術水準から、吊り下げ式ソナー（ディッピングソナー）が有効と考えられており、このソナーを海面に降ろして運用できる飛行艇が必要とされていました。そのため、1960年にはソナーを主、ソノブイを従として運用する対潜飛行艇PX-Sの開発が開始されました。また、哨戒機器類も国産化の方針となり、迅速な着水のための機上波高計も開発されました。

当初、PX-Sと並行して大型固定翼哨戒機PX-Lも開発する予定でしたが、予算上の制約からPX-Sの開発が優先されました。その際、米海軍からは、P6Y用に開発されていたAN/AQS-6ディッピングソナーの技術情報や、最新鋭の哨戒機器が提供され、これらの技術がPS-1の開発に活かされました。

1965年、新明和は防衛庁から試作機の製作を命じられました。PS-1は、「外洋での運用を第一の目的とする世界初の飛行艇」というコンセプトのもと、高いSTOL性能と耐波性能を持つ機体として設計されました。動力はP-2Jと同じT64ターボプロップエンジンを採用し、対潜装備はP-3Bに準拠した電子装備に加えて、HQS-101ディッピングソナーが搭載されました。

1967年 10月24日、PX-Sは初飛行を迎えましたが、その後、安定性やエンジンに関するトラブルが相次ぎました。しかし、計画の変更は難しく、1968年 7月31日に2機のPX-Sが海上自衛隊に納入されました。運用試験の結果、1970年にPS-1として制式採用が決定し、試作機を含めて23機が製造されました。

運用

PS-1は、導入当時から日本の電子技術の遅れが指摘されていました。アメリカ海軍の最新型P-3Cがソノブイによる効率的な情報収集を行うのに対し、PS-1は着水しての水中ソナー探査であり、哨戒能力において大きく劣っていました。そのため、ソノブイの採用案も検討されましたが、コストの面から着水式ディッピングソナーが採用されました。

しかし、ソ連の潜水艦の高性能化に対応するため、次々と新しい哨戒機材を追加する必要があり、結果としてPS-1は重量が増加し、当初の29トンから燃料満載時には43トンにもなりました。また、荒波での着水がセールスポイントでしたが、実際の運用では計器の信頼性が低く、熟練パイロットでも不規則な波の動きを読むのが困難でした。離着水時にはプロペラが水面を叩き、ベアリングの寿命が短くなるなど、様々な問題が発生しました。

1976年から1980年にかけて、防衛庁はPS-1の対潜能力向上の検討を行いましたが、ソノブイによる探知能力の向上やディッピングソナー戦術の有効性の低下から、PS-1は要求性能を満たしていないと判断され、1980年8月に調達打ち切りが決定しました。開発費がかさみ、生産数が少なかったため、1機あたりの単価は非常に高くなり、税金の無駄遣いとして非難されました。また、同時期に導入されたP-2Jが無事故で運用されたのに対し、PS-1は退役までに6機を失い、30名以上の自衛隊員が殉職しました。

しかし、技術者たちの努力により、PS-1の機体は改良を重ねられ、「飛行艇」としての性能は向上しました。この経験は、後のUS-1開発へとつながりました。

1981年にP-3Cが導入されると、PS-1は完全にその役割を終え、1989年 3月17日に全機が退役しました。

事故

PS-1は、運用中に数々の事故に見舞われました。

1976年 1月22日：5805号機が離水時に転覆し、初の用途廃止機となりました。
1977年 4月6日：5808号機が着水に失敗し転覆、1名が殉職しました。
1978年 3月28日：5811号機がフロート破損により転覆しました。
1978年 5月17日：5812号機が山中に墜落し、13名が殉職しました。
1983年 4月26日：5801号機が失速して墜落、11名が殉職しました。
1984年 2月27日：5803号機が墜落し、12名が殉職しました。

これらの事故により、PS-1は6機と37名の搭乗員を失いました。

機体

PS-1の機体形状は、二式飛行艇やP5M マーリンに類似しており、中型機でありながら、主翼に直線翼、T字尾翼を採用しました。機首には迎え角や偏流のセンサーマストが設置されています。

エンジンは4基のターボプロップエンジンを搭載し、対潜哨戒機器として吊り下げ型ソナーを採用しています。このソナーは、海面に着水後、ホバリング状態で海中に吊り下げて使用されました。また、P-2J同様にP-3B準拠の対潜哨戒機器も搭載されており、後期には着水せずに哨戒活動を行うこともありました。

大きな特徴としては、波消し用チャインと境界層制御装置（BLC）があり、波高3メートルの荒海でも離着水が可能な高いSTOL性能を実現しています。車輪はビーチング・ギアであり、滑走路での離着陸はできません。

発展

救難飛行艇化

PS-1は、対潜哨戒機としては大量導入には至りませんでしたが、その技術は救難飛行艇US-1へと発展しました。対潜哨戒機能を救難機器に置き換え、陸上離着陸のためのランディングギアを取り付けたUS-1は、1975年より海上自衛隊に導入され、1981年からはエンジンを転換して出力が増強されたUS-1Aが登場しました。この技術はさらにUS-2へと受け継がれています。

消防飛行艇実験

新明和では、消防飛行艇の実用化も検討されました。PS-1の1号機（5801）には貯水タンクが取り付けられ、消防飛行艇の技術実験が行われました。しかし、運用上の問題やコスト面から、消防飛行艇としての計画は中止となりました。ただし、US-2では消防飛行艇としての発展型が発表されています。

スペック

乗員: 12名
全長: 33.5m
全幅: 32.8m
全高: 9.7m
空虚重量: 23,520kg
離陸重量: 33,000kg（標準）/ 40,000kg（最大）
エンジン: GE/IHI T64-IHI-10ターボプロップ×4、T58-IHI-8B×1
出力: 47kW×4（2,850ESHP×4、1,250SHP×1）
最大速度: 545km/h
巡航速度: 370km/h
離着水速度: 83km/h
航続距離: 4,630km
兵装: 魚雷最大4本、対潜爆弾最大6発、127mmロケット弾最大6発

派生型

PX-S: 対潜哨戒飛行艇の試作機
PS-1: PX-Sの量産型
PS-1改: 救難飛行艇の試作機（US-1）
US-1: 量産型救難飛行艇
US-1A: エンジンを強化したUS-1
US-1A改: US-1後継機の試作機（US-2）
US-2: 量産型救難飛行艇
SS-2: 多用途型飛行艇の構想案

登場作品

アニメ・漫画: 『D-LIVE!!』、『紺碧の艦隊』
小説: 『日本沈没』
ゲーム: 『大戦略シリーズ』

脚注

参考文献

「日本はなぜ旅客機を作れないのか」 - 前間孝則（草思社）
月刊「JWings」- イカロス出版
世界の傑作機 139「新明和 PS-1」文林堂
「日本の航空宇宙工業50年の歩み」編纂委員会編

外部リンク

* 新明和工業 - 飛行艇開発ストーリー

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