高松次郎

高松次郎：前衛から色彩へ至る軌跡

高松次郎（1936-1998）は、20世紀後半の日本美術史において重要な役割を担った前衛美術家、現代美術家です。本名は新八郎。東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業後、1950年代後半から前衛芸術運動に積極的に関与しました。

初期の活動では、中西夏之、川仁宏らと共に、美術界に衝撃を与えた「山手線事件」などのハプニングを敢行。また、中西夏之、赤瀬川原平らと共に芸術集団ハイレッド・センターを結成し、数々の革新的なパフォーマンスを展開しました。これらの活動は、既成の美術概念への挑戦であり、高松次郎の反体制的な姿勢を明確に示しています。

高松次郎の作品は、その表現様式において多様性に富んでいます。インスタレーション、絵画、彫刻、壁画、写真、映画など、様々な媒体を駆使し、抽象的で反芸術的な傾向の強い作品を数多く発表しました。中でも、「影」シリーズは特筆すべきものです。実体のない影のみを描いたこのシリーズは、見る者に思考を促し、作品と現実世界との間に新しい関係性を生み出しました。また、自然物を僅かに加工しただけの作品や、遠近法を逆転させた作品など、観念的な表現によって、鑑賞者の思考力を試すかのような作品も制作しています。

これらの初期の作品群は、1960年代以降の日本のコンセプチュアル・アートに多大な影響を与え、その後の美術表現に大きな変革をもたらしました。高松次郎は、既存の枠にとらわれず、常に新しい表現方法を模索し続けました。

しかし、高松次郎の芸術は、初期の反芸術的な表現にとどまりませんでした。1980年代に入ると、「形」シリーズを発表し、作品に飛躍的な展開を見せます。平面空間に線、面、色彩が溢れるようになるなど、初期の作品とは対照的な、色彩豊かな表現へと移行していったのです。

彼は62歳で亡くなるまで、20年以上にわたり三鷹のアトリエで制作を続けました。晩年、病に臥せってもなお、「形」シリーズの追求を続け、その創作活動は生涯にわたって衰えることはありませんでした。

高松次郎は、教育者としても活躍しました。多摩美術大学専任講師、東京藝術大学非常勤講師を務め、後進の育成にも尽力しました。1981年には「十代の会」の発起人の一人として、若手芸術家の支援にも携わっています。

主な作品としては、「遠近法の日曜広場」（1970年、大阪万博）、「遠近法のテーブル」（1967年）、「ガラスの単体」（1971年）、「日本語の文字(この七つの文字)」（1970年）、「影」の壁画（1967年、サパークラブ・カサドール、倉俣史朗デザイン）、「影」の応接室（1974年、西日本シティ銀行本店応接室、磯崎新設計）、「赤ん坊の影NO.387」などがあります。これらの作品は、現在も日本の美術館などに収蔵され、多くの人々に鑑賞されています。

高松次郎は、ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ、オノ・ヨーコ、荒川修作、フルクサス、篠原有司男といった、同時代の著名な芸術家たちとも交流がありました。また、東映動画やシルバー編機製造にも勤務した経歴を持ち、多様な経験が彼の芸術に反映されていると言えるでしょう。彼の革新的な作品群は、現代美術史に確固たる足跡を残しました。

もう一度検索