川仁宏

川仁宏（かわに ひろし、1933年～2003年）は、20世紀後半の日本を代表する編集者、思想家、そしてパフォーマンスアーティストでした。慶應義塾大学仏文科卒業後、多岐にわたる活動で時代を駆け抜けた、波乱に満ちた生涯を送りました。

1950年代から、川仁宏は政治運動に積極的に関わり、公然と、そして密かに活動しました。同時に、前衛的なパフォーマンスアートにも取り組み、その活動は後の現代芸術シーンに大きな影響を与えました。中でも、中西夏之、高松次郎らと行った「山手線事件」と呼ばれる電車内でのハプニングは、後のハイレッド・センターにつながる重要な出来事として知られています。これは、既存の秩序や社会通念への挑発とも捉えることができます。

1960年代に入ると、川仁宏はさらに精力的に活動の場を広げます。谷川雁率いる大正行動隊に参加する一方、自立学校にも関わりました。自立学校は、山口健二、松田政男が企画し、谷川雁、吉本隆明、埴谷雄高、黒田寛一といった錚々たる講師陣を擁する革新的な教育プログラムでした。また、赤瀬川原平の「千円札事件」では事件懇談会事務局長を務め、法廷でのパフォーマンスという異例な行動に出ました。この行動からも、彼の反骨精神と表現への強い意志が伺えます。さらに、山口健二と松田政男が結成した東京行動戦線にも参加し、ベトナム渡航を企てるなど、その活動は常に時代の最先端を走り続けました。

1969年からは現代思潮社の企画部次長、編集長として活躍しました。赤瀬川原平、唐十郎、笠井叡といった著名な作家たちの作品を世に送り出しただけでなく、稲垣足穂の全集や、デリダ、バタイユ、フーリエといった思想家の著作の翻訳出版にも携わりました。現代思潮社での活動は、単なる出版活動にとどまらず、日本の文化・思想界に大きな影響を与えたと言えるでしょう。さらに、美術専門学校「美学校」の設立にも中心的な役割を果たし、既存の美術教育への挑戦を行いました。

現代思潮社退社後は、芸術活動に注力しました。土方巽らとの舞踏関連の著作を手がけ、言葉による即興ライブやトークイベントなども積極的に行いました。1980年代以降は、灰野敬二や小杉武久といったアーティストとのコラボレーションも開始し、美術家や舞踏家との競演によるライブパフォーマンスを展開しました。これらの活動は、彼の編集者としての経験と、思想家としての鋭い洞察力を融合した、独自の表現方法と言えるでしょう。

しかし、1996年に十二指腸潰瘍で倒れてからは、1998年には脳梗塞、さらにパーキンソン症候群を発症。車椅子生活を余儀なくされ、彼の表現活動は大きな困難に直面することになります。身体の自由を失うことは、即興性を重視した彼の表現スタイルにとって大きな打撃でした。しかし、彼はあきらめませんでした。2000年頃から、車椅子や揺り椅子に座ったまま、ライブパフォーマンスを再開します。病魔と闘いながら、表現活動を続ける彼の姿は、多くの人々に感動を与えたことでしょう。2003年2月、肺炎を悪化させ、69歳でこの世を去りました。

川仁宏の生涯は、編集者、思想家、そしてパフォーマンスアーティストとしての活動を通して、常に時代の先鋭的な部分に位置していました。彼の活動は、日本の現代文化、特に前衛芸術や思想運動に計り知れない影響を与えました。彼の残した作品、そして活動は、これからも多くの人々に刺激を与え続けるでしょう。

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