高槻七宝

高槻七宝（たかつきしっぽう）

高槻七宝は、江戸時代中期から明治初期にかけて京都で制作された七宝器です。現存するものが少なく、その詳細な製法や作風は未だに謎に包まれています。

概要

江戸時代中期の七宝に関する記録は非常に少ないため、高槻七宝は当時の七宝技術を知る上で貴重な手がかりとなります。明治33年（1900年）の京都府の調査によると、五条坂に住む高槻という人物が泥絵の具を用いて襖の引手、釘隠し、掛け軸の軸などを制作し、その技術は七代にわたって受け継がれたものの、明治初期（1868年）頃に途絶えたとされています。

しかし、その後の職人や釉薬の行方、具体的な作風については詳しい記録が残っていません。江戸時代の七宝は京町家などに残されており、骨董品店などで見かけることもありますが、高槻七宝と特定できるものは非常に稀です。

明治維新と東京奠都は、高槻七宝に大きな打撃を与えたと考えられます。武家や公家屋敷向けの需要が激減し、衰退の一途を辿ったと推測されています。一説には、明治を待たず文久年間（1861～64年）に絶えたとも言われていますが、確証となる資料は見つかっていません。

京都では、七宝は「七宝流しの法」と呼ばれ、金工の一環として扱われてきました。そのため、七宝を施すことを前提とした鋳物制作の技術は、金工師らによって受け継がれたと考えられています。慶応元年（1865年）創業の鋳物商、吉田安兵衛が博覧会に象嵌七宝を施した鋳造銅器を出品したことや、明治27年（1894年）に横井時冬が著書の中で、江戸初期の鋳物工、嘉長が七宝を手掛けていたことを記述していることからも、その様子が伺えます。

京都府の調査によると、明治5年（1872年）頃から、従来の金工品とは異なる新たな七宝器が京都で生産されるようになりました。これは、海外向けの輸出工芸品としての側面が強く、明治3年（1870年）に開設された京都舎密局や、明治4年（1871年）に設けられた勧業場といった官庁の指導が背景にありました。具体的には、銅器七宝が明治5年から、陶器七宝が明治7年から、平戸七宝が明治18年から生産されたと記録されています。

明治5年（1872年）には、尾張国から桃井義三郎という人物が京都に訪れ、後藤文造と河原町三条上る加賀屋敷にて七宝会社を設立しました。しかし、資金繰りの悪化により一旦閉鎖し、その後、大井善蔵と再び会社を興しますが、同年7～8月頃には解散してしまいます。その後、水谷龍造が七宝会社を設立するも、翌明治6年8月には閉場しました。

名古屋の七宝焼起源碑には、「桃井英升伝並河靖之　是西京七宝焼之祖」と刻まれており、これが通説となっています。しかし、並河靖之の帝室技芸員履歴や並河家の回想録、当時の雑誌、京都府の物産調などの資料には、桃井英升（または義三郎）から並河に技術が伝授されたことを裏付ける記録は見当たりません。七宝は当時有望な輸出産業であり、その製法は企業秘密であったため、容易に伝授されるとは考えにくいのが実情です。

高槻七宝は、その歴史的価値と希少性から、 आज भी 多くの研究者や愛好家の関心を集めています。

脚注

関連項目

明治維新
東京奠都
七宝焼
* 京七宝

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