高田せい子

大正から昭和にかけて活躍した日本の舞踊家、高田せい子（たかたせいこ）は、1895年（明治28年）9月13日に石川県金沢市で澤野せいとして生を受けました。後の夫となる高田雅夫と共に、一世を風靡した「浅草オペラ」の時代を牽引し、夫の早逝後もその芸術活動を絶やすことなく、日本の舞踊界の発展に多大な貢献をしました。本名は中村せい（旧姓澤野）、結婚以前は原せい子という芸名を用いていました。

高等女学校を卒業後、知的な探求心から上京し、1912年（明治45年）4月には東京音楽学校（現在の東京藝術大学音楽学部）予科に入学。その後、本科の器楽部ピアノ専攻へと進みますが、途中で退学し、新たな道へと進みました。麹町区内幸町にあった帝国劇場で、歌劇部の指導者であったジョヴァンニ・ヴィットーリオ・ローシーのもとでオペラを学びます。ローシーの指導を受けたこの経験が、後の舞台人としての基礎を築くことになります。帝国劇場の歌劇部が1916年（大正5年）に解散した後、ローシーは同年10月に赤坂にローヤル館を開業し、オペラ公演を継続します。この新たな場で、原せい子として高田雅夫らと共に舞台に立ちました。「原」という芸名は、当時著名な声楽家であった原信子に敬意を表してつけられたと言われています。

1918年（大正7年）、23歳を迎える頃、共にローヤル館で活動していた同い年の高田雅夫と結ばれ、以降、高田せい子を名乗るようになりました。ローヤル館は1919年（大正8年）2月に解散し、ローシーは帰国しますが、同年5月には松竹が浅草公園六区の浅草オペラに本格的に参入し、「新星歌舞劇団」を結成します。高田夫妻はこの劇団に参加し、浅草の舞台に立ちます。1920年（大正9年）8月、根岸興行部の三代目である根岸吉之助は、「新星歌舞劇団」から高田夫妻をはじめ、清水金太郎・清水静子夫妻、田谷力三、堀田金星といったローヤル館出身の実力派を引き抜き、「根岸大歌劇団」を組織しました。同年10月11日、根岸が経営する金龍館で旗揚げ公演が行われ、金龍館と同歌劇団を中心に、浅草オペラはまさにその黄金時代を迎えることになります。

浅草オペラが絶頂期にあった1922年（大正11年）、高田夫妻は共にヨーロッパ各地やアメリカ合衆国へと旅立ち、現地の舞踊を精力的に研究しました。しかし、帰国を控えた1923年（大正12年）9月1日、関東大震災が発生し、首都は壊滅的な被害を受け、浅草六区も大きな打撃を受けました。これにより浅草オペラはその終焉を迎えることになります。夫妻は翌1924年（大正13年）に帰国し、同年、東京に高田舞踊研究所を開設しました。

1929年（昭和4年）5月24日、夫である高田雅夫が満33歳の若さで逝去するという悲劇に見舞われます。しかし、高田せい子はその困難を乗り越え、その後も創作舞踊の発表を精力的に続けました。教育者としての一面も持ち、1932年（昭和7年）から1941年（昭和16年）にかけては、二階堂トクヨが創設した日本女子体育専門学校（現在の日本女子体育大学）で西洋舞踊の指導にあたり、後進の育成に力を注ぎました。

1939年（昭和14年）10月、朝鮮藝術賞の舞踊部門審査員に、舞踊家の石井漠と共に名を連ねます。この頃、石井の弟子であり人気を博していた舞踊家、崔承喜と人気を二分する存在でした。

第二次世界大戦が終結した1945年（昭和20年）8月15日以降、戦後もその活動は衰えることはありませんでした。高田門下であった山田五郎と共に高田・山田舞踊団を主宰し、新たな時代における舞踊芸術の創造に取り組みました。1950年（昭和25年）に開催された現代美術自選代表作十五人展では、洋画家児島善三郎が描いた旧作『スペイン装の高田せい子女史』（制作年不詳）が出品され、芸術分野を超えた交流があったことを示しています。

日本の現代舞踊界の発展に尽力し、1959年（昭和34年）には全日本芸術舞踊協会（現在の現代舞踊協会）の結成に中心的な役割を果たし、初代会長に就任しました。同年には芸術分野での功績が認められ紫綬褒章を受章。さらに1970年（昭和45年）には勲四等宝冠章を受章するなど、その生涯にわたる貢献が高く評価されました。江口隆哉、平岡斗南夫、小沢恂子、安藤哲子、三輝容子といった数多くの著名な舞踊家たちを育て上げた功績も特筆されます。

1976年（昭和51年）、長年にわたり務めた現代舞踊協会の会長職を退き名誉会長に就任。その翌年、1977年（昭和52年）3月19日、満81歳でその波乱に満ちた生涯を閉じました。墓所は東京都府中市にある多磨霊園にあります。

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