根岸大歌劇団

根岸大歌劇団とは

根岸大歌劇団は、1920年9月3日に結成され、1924年3月に解散した日本のオペラ劇団です。通称「根岸歌劇団」として知られ、大正時代に東京の浅草公園六区にあった劇場「金龍館」を拠点に、浅草オペラの時代を築いた中心的な存在でした。

結成と発展

1920年、根岸興行部の経営者である根岸吉之助が、前年に結成された「新星歌舞劇団」の主要メンバーを引き抜き、自身の劇場「金龍館」を本拠地として根岸大歌劇団を立ち上げました。当時、日本初のオペラ専門館であった「日本館」をしのぐ勢力となり、大衆にオペラを広める役割を果たしました。劇団の初演は、同年10月11日に行われたオペラ『釈迦』で、伊庭孝が作詞、竹内平吉が作曲、高田雅夫がコレオグラフを担当しました。また、この劇団には、後に著名な歌手となる二村定一や藤原義江も参加していました。

浅草オペラ全盛期には、軽演劇の常磐座、オペラの金龍館、映画の東京倶楽部の3館共通入場券を導入し、オペラの大衆化に成功しました。これは、当時帝国劇場では高級な芸術であったオペラを、より多くの人々が楽しめるようにする画期的な試みでした。

変遷と解散

1921年には、伊庭孝が佐々紅華と共に劇団を退団し、奈良県で「生駒歌劇団」を設立しました。同年12月には、金龍館が改築され、営業を再開しました。劇団は、オッフェンバックの『天国と地獄』やロッシーニ、ヴェルディなどのオペラを上演し続けました。

1922年3月20日には、ビゼーのオペラ『カルメン』を初演し、この公演で榎本健一がコーラスとしてデビューしました。その後、佐々紅華のオリジナルオペレッタ『勧進帳』などに出演し人気を博しました。

1923年には、広島から丸山定夫が入団し、戸山英二郎が帰国しました。しかし、同年9月1日に関東大震災が発生し、金龍館を含む浅草一帯が壊滅的な被害を受け、劇団も大きな打撃を受けました。その後、劇団は地方公演を行いましたが、1924年3月に解散しました。劇団出身者たちは次々と新たな劇団を立ち上げましたが、往時の勢いを取り戻すことはできませんでした。

1925年には、浅草劇場での『オペラの怪人』を最後に浅草オペラの灯は消え、その短い歴史に幕を閉じました。

劇団のメンバー

根岸大歌劇団には、100名以上の歌手が在籍していました。また、野球部も存在したと言われています。

主なメンバーは以下の通りです。

経営サイド: 根岸吉之助、立花寛一
文芸部: 石田一郎、伊庭孝、佐々紅華、内山惣十郎、高田保、佐藤八郎
音楽部: 竹内平吉、篠原正雄、奥山貞吉
歌手: 安藤文子、柳田貞一、清水静子、井上起久子、天野喜久代、松島栄美子、田谷力三、大津賀八郎、佐藤光照、堀田金星、藤村悟朗、清水金太郎、黒田達人、高田雅夫、原せいこ、戸山英二郎（藤原義江）、宇津秀男、石井漠、木村時子、石田守衛、福井茂、奥山貞吉、榎本健一、牧玲羊

関連事項

浅草オペラ
根岸興行部

参考音源

CD『浅草オペラ珠玉集』、カメラータ東京、2001年
CDブック『恋はやさしい野辺の花よ - 田谷力三と浅草オペラ』、清島利典、大月書店、1993年 ISBN 4272610252

根岸大歌劇団は、その短い活動期間にもかかわらず、日本の演劇史に大きな足跡を残しました。浅草オペラという一大ムーブメントの中心として、大衆にオペラの楽しさを広め、多くの才能ある人材を輩出したことは特筆すべき点です。

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