高草山

高草山（たかくさやま）

高草山は、日本の静岡県中部、焼津市と藤枝市の行政区画が交錯する場所に位置する、標高501メートル（m）の山です。この山は、駿河湾沿岸からわずか3キロメートル（km）ほどと海に近接しており、一体となって比較的大きな山塊を形成しています。この山塊は、県都静岡市の広がる静岡平野と、主に藤枝市や焼津市を含む志太平野とを物理的に隔てる役割を果たしています。

地形と地質

高草山山塊の東側は、そのまま海岸線へと続いており、その末端部では、景勝地として知られる大崩海岸（おおくずれかいがん）のダイナミックな断崖絶壁を形成しています。一方、山塊の西側は、瀬戸川水系の上流域に広がる山並みへと連なり、さらにその北西方向では、大井川の上流域や、日本の屋根と呼ばれる赤石山脈（南アルプス）の壮大な山々へと接続しています。

高草山を構成する地質は特徴的です。主にアルカリ玄武岩の枕状溶岩（まくらじょうようがん）から成っており、これはかつて遠く離れた四国海盆で誕生した海底火山（海山）が、長い時間をかけてプレートの動きによって本州側へと運ばれ、大陸の縁に衝突・付着した「付加体（ふかたい）」であると考えられています。

交通の要衝と行政界

高草山の東側、山頂から程近いわずか300メートルほどの狭隘な区域には、日本の東西を結ぶ大動脈であるJR東海道本線、東海道新幹線、そして東名高速道路といった主要な交通網が集中しています。これらの路線や道路は、山塊を貫く日本坂トンネルや石部トンネルといった長大なトンネル群によってこの地点を通過しており、地理的に交通の要衝となっています。

高草山の行政区画は複雑に入り組んでいます。全体としては、山の南側が焼津市、北側が静岡市に属する部分が多いものの、山頂のすぐ北側には藤枝市（旧岡部町域）が細長く張り出しており、さらに焼津市の境界もその北側で大きく張り出しています。焼津市の最北端は、高草山山頂から約2キロメートル北に位置する満観峰（まんがんほう）の頂上となっています。

山頂の様子と自然

高草山の最高地点は、緩やかながら二つのピークを持つ双耳峰（そうじほう）の形状をしています。西側の峰には、正確な標高を示す二等三角点（点名「高草山」）が設置されており、その標高は500.98メートルです。かつては東西両峰に無線関連の塔が建っており、特に東峰の大型無線中継施設は、焼津市内から望むことができる山のシンボルとして市民に広く認知されていましたが、これは2020年3月に解体・撤去されました。

山頂周辺には、他にもう一本の通信塔や、古くからの信仰を集める高草山権現、戦没者を追悼する慰霊碑などが点在しています。近年、特に冬の風物詩として、山腹にある公園には大規模なクリスマスイルミネーションが設置され、その鮮やかな光景は焼津市街地の広い範囲からも見ることができます。

高草山の豊かな自然環境は特筆に値します。約1300種類に及ぶ多様な植物が自生しており、植物の宝庫となっています。中でも、春先に可憐な黄色の花を咲かせる絶滅危惧種のキスミレは、残念ながらその数は年々減少傾向にあるとされていますが、地元の熱心な保護活動によって、現在もこの山でその姿を見ることができます。また、山腹の一部は、古くから茶畑として開墾され、地域の農業に利用されています。

登山とハイキング

高草山は、その標高の割に山頂や登山道の途中からの眺望が素晴らしいことから、気軽に楽しめる登山やハイキングの目的地として人気があります。山頂まで整備された登山道が複数開設されており、これらの道を利用すれば、眼下に広がる駿河湾や遠く伊豆半島、あるいは志太平野の街並み、そして空気が澄んだ日には霊峰富士山の雄大な姿を望むことができる絶好の展望ポイントが点在しています。国の長距離自然歩道である東海自然歩道の、静岡県が指定するバイパスコースもこの山の付近を通っています。

また、周辺地域の幼稚園や小学校の遠足の目的地としても頻繁に利用されており、山の中腹にある笛吹段公園（うすふきだんこうえん）は、焼津市街地を一望できる素晴らしい景観を持つ休憩スポットとなっています。高草山は、静岡県内の優れた山を選定した『静岡の百山』（静岡百山研究会編）の一つにも名を連ねており、その自然や景観の価値が広く認められています。

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