高野蘭亭

高野蘭亭（たかの らんてい）

高野蘭亭（1704年 - 1757年）は、江戸時代中期に活躍した盲目の漢詩人です。本名は惟馨、字は子式、別号に東里を名乗りました。明の格調派に影響を受けた作風は、当時の人々に親しみやすく、多くの門弟を育てました。

名前について

諱の惟馨、字の子式は『書経』の一節に由来し、号の蘭亭は王羲之の『蘭亭序』、また父の師である服部嵐雪の別号「嵐亭」にちなむと考えられています。生前は「東里」の号が主に使用されましたが、没後の詩集編纂時に同門の中根東里との混同を避けるため『蘭亭先生詩集』と名付けられ、以降「蘭亭」の名が定着しました。

生涯

蘭亭の先祖は、室町時代に下野国喜連川を領した高石氏でしたが、後に下総国姉ヶ崎で帰農しました。祖父の代に江戸へ移り、魚問屋を開業。父も魚問屋を継ぎ、俳人としても知られていました。蘭亭は父が50歳の時に妾との間に生まれた子で、幼少の頃から学問に励み、荻生徂徠に師事しました。

20歳前後で失明してからは詩作に没頭し、その才能を開花させました。当初は商人の息子として徂徠門下では一段低い扱いを受けていましたが、失明後は武士と同格に扱われるようになったといいます。徂徠の死後、服部南郭に師事し、詩人としての名声を確立しました。

越智雲夢編『懐仙楼雑記』には、蘭亭の詩が多数収録されており、当時の江戸詩壇における存在感を示しています。茅場町に新居を構え、明月楼という建物を設けるなど、晩年は鎌倉にも庵を結び、風雅な生活を送りました。死の前年には、髑髏杯にまつわる噂が広まり、批判も受けましたが、門人たちによって詩集が出版され、その功績は後世に伝えられました。

代表的な詩

月夜三叉口泛舟

三叉中断す、大江の秋

明月新たに懸かる万里の流れ

碧天に向かつて玉笛を吹かんと欲すれば

浮雲一片扁舟に落つ

この詩は、隅田川の中洲である三つ又付近での舟遊びを詠んだもので、服部南郭の「夜墨水を下る」、平野金華の「早に深川を発す」と共に『墨江三絶』と称されています。月夜の情景と作者の心情が美しく表現された名作として知られています。

高野蘭亭は、その生涯を通じて多くの人々に影響を与え、江戸の文化に大きな足跡を残しました。

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