越智雲夢

越智雲夢（おち うんぼう）

越智雲夢は、江戸時代中期に活躍した儒学者であり、医者でもありました。彼は江戸幕府の典医である養安院曲直瀬家の5代目として、その名を知られています。本名は越智正珪、幼名は亀次郎、字は君瑞といい、懐仙楼や神門叟など、多くの別号を持ちました。

幕府に医術をもって仕える傍ら、雲夢は学問にも情熱を注ぎました。荻生徂徠に古文辞学を学び、服部南郭や本多忠統といった当時の文化人と交流し、詩文を楽しみました。

号について

雲夢が越智氏を称したのは、初代曲直瀬正琳が伊予国河津氏庶流の一柳氏出身であったことに由来します。雲夢という号は、古代中国の楚にあったとされる仙境、雲夢沢から取られました。

懐仙楼という号には、興味深いエピソードがあります。ある日、雲夢が邸内で友人たちと過ごしていた際、階上の書斎の号を募集しました。その際、ある人が「仙人は楼居す」という故事に基づき「懐仙」を提案しました。雲夢は「こんな狭い所に仙人も寄り付くまい」と答えたものの、その時小鳥が飛来したことから、西王母の使いであるという話になり、「懐仙」の号が採用されたと言われています。

神門叟の号は、曲直瀬家代々の屋敷が神田橋門外に与えられていたことに由来します。その他、雪翁、松月館、雨花庵といった号も用いました。

経歴

貞享3年（1686年）1月に生まれた雲夢は、正徳の頃から服部南郭らと交流し、荻生徂徠の学派に初期から参加しました。

医業においては、享保9年（1724年）に家督を継ぎ、享保15年（1730年）に法眼となりました。寛保3年（1743年）に病のため致仕し、延享3年（1746年）3月25日に亡くなりました。墓所は代々の墓所である麻布仙台坂上天真寺にあります。

人物

雲夢は温厚な性格で知られ、家人を叱ることはなかったと言われています。弟子たちは常に「主人について見ないものが3つある。慍顔、詰語、鄙吝である」と語っていたそうです。また、神田門外の屋敷では、父に倣い、江戸城のある西方に足を向けて寝ることは決してありませんでした。

蔵書家としても知られ、正琳以来の蔵書は神門文庫と称されました。また、中国絵画も蒐集し、本多忠統と古画の交換を行ったり、享保2年（1717年）には自邸に狩野派の画家を招いて古画の展覧会を催したりしました。琴を嗜むなど、文化人としての側面も持ち合わせていました。

系譜

父：曲直瀬正璆 - 曲直瀬家4代目
母：柘植氏
妻：村井氏
長男：正白 - 字は長庚。夭逝。
次男：正山 - 曲直瀬家六代目。幼名は亀太郎、又五郎。字は叔岳。別号は逃禅。

著作

『懐仙楼集』10巻5冊
服部南郭「懐仙楼集序」、本多忠統「越君瑞文集序」が寄せられています。生前に成立し、死後、嫡男の越智正山が校訂し、寛政12年（1800年）に「懐仙楼集跋」を付して出版されました。
『懐仙楼雑記』7冊（享保20年（1735年））
『神門余筆』
『先哲叢談』に見えます。
『赤城遊記』
『徂徠集』所載詩の徂徠自注において、雲夢が本書を見せに徂徠邸を訪れたことが記されています。

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