高野陽太郎

高野 陽太郎

高野 陽太郎（たかの ようたろう）は、1950年6月28日に生まれた日本の心理学者です。認知心理学と社会心理学を主要な専門分野とし、長年にわたり日本の学術界の中心で活躍してきました。東京大学で教授を務め、退官後は名誉教授の称号を得ています。現在も放送大学の客員教授として、教育・研究活動を続けています。

特に、客観的な根拠に乏しいとされる「日本人論」に対し、心理学の科学的視点から鋭い批判を展開したことで広く知られています。この批判は、特定の文化や国民性に安易なレッテルを貼ることへの警鐘であり、心理学の知見を社会に対して批判的に応用する重要性を示しました。

来歴

東京都で育った高野氏は、心理学の道を歩み始め、1975年に早稲田大学文学部心理学科を卒業しました。その後、東京大学大学院人文科学研究科に進み、さらに専門的な知識を深めました。心理学研究の最前線を求めて渡米し、1985年にはアメリカ合衆国の名門、コーネル大学心理学部大学院で博士課程を修了し、Ph.D.（心理学博士）を取得しました。

博士号取得後、アメリカ国内のヴァージニア大学で専任講師として教育・研究キャリアをスタートさせました。1987年に帰国し、早稲田大学文学部の専任講師に着任。その後、1990年には東京大学文学部の助教授となり、日本の心理学研究・教育における主要な拠点へと移りました。2003年には東京大学大学院人文社会系研究科の教授に昇進し、多くの後進の指導にあたりました。2016年に東京大学を定年により退官しましたが、研究者としての情熱は衰えず、放送大学の客員教授として現在も活動を続けています。専門分野としては、一貫して認知科学（認知心理学、社会心理学）を中心に探求しています。

研究内容と貢献

高野氏の研究は、人間の思考、知覚、記憶といった認知プロセスと、社会における個人の行動や集団のダイナミクスを心理学的に解明することに焦点を当てています。中でも、氏の日本人論批判は、学界内外で大きな注目を集めました。「集団主義」のような概念が、科学的なデータに基づかず、しばしば恣意的に解釈されている現状を指摘し、心理学的な実証研究の必要性を強く訴えました。

また、基礎的な認知心理学の領域でも、「鏡映反転」のような一見単純ながら人間の認知の仕組みに深く関わる問題に切り込むなど、幅広いテーマで研究成果を発表しています。これらの研究は、心理学の知見を深めるだけでなく、私たちが日々の生活で経験する現象を科学的に理解するための新たな視点を提供しています。

受賞

その卓越した研究業績は高く評価され、複数の学術賞を受賞しています。

1994年：日本心理学会研究奨励賞
2000年：三隅賞（日本グループ・ダイナミックス学会、アジア社会心理学会）

これらの受賞は、高野氏が日本の心理学、特に社会心理学や認知心理学の分野で重要な貢献を果たしていることを示しています。

主な著作

高野氏は、研究成果をまとめた多くの著作を発表しており、専門家だけでなく一般の読者にも心理学の面白さを伝えています。

単著

『傾いた図形の謎』東京大学出版会 1987年
『鏡の中のミステリー』岩波書店 1997年
『「集団主義」という錯覚』新曜社 2008年
『認知心理学』放送大学教育振興会 2013年
『鏡映反転　紀元前からの難問を解く』岩波書店 2015年

特に『「集団主義」という錯覚』は、日本人論批判の代表作として広く読まれました。また、放送大学のテキストは、この分野を学ぶ多くの人々にとって重要な入門書となっています。

編著

『認知心理学２ 記憶』 東京大学出版会 1995年
『心理学研究法』 有斐閣 2004年
『認知心理学概論』 放送大学教育振興会 2006年
* 『認知心理学ハンドブック』 有斐閣 2013年

これらの編著は、特定のテーマに関する詳細な解説や、心理学の研究方法、分野全体の概論、そして専門的なハンドブックとして、多くの研究者や学生にとって貴重な資料となっています。

高野陽太郎氏は、科学的な厳密性を追求しつつ、心理学の知見を社会に還元することに情熱を注いできた研究者です。その業績は、日本の心理学界に多大な影響を与えています。

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