魏牟

魏牟：戦国時代の道家思想家

魏牟（ぎぼう）は、中国戦国時代後期（紀元前3世紀中頃）に活躍した魏の公子であり、道家思想家として知られています。旧中山国の領地に封ぜられ、公子牟や中山公子牟とも呼ばれていました。残念ながら、彼自身の著作とされる『公子牟』（四篇）は現存しておらず、『漢書』芸文志の記述によってその存在が確認できるのみです。

魏牟の思想は断片的にしか伝わっていませんが、『荀子』の非十二子篇では、同じく道家思想家と見なされた它囂（たぎょう）とともに批判的に言及されています。この記述から、魏牟の道家思想が当時の思想界において一定の影響力を持っていたことが推察されます。また、『漢書』にもその思想が簡潔に記されています。

魏牟は、名家学派の代表的な思想家である公孫龍と親交があったことが複数の文献から確認できます。『荘子』秋水篇では、魏牟が公孫龍に荘周（荘子のこと）の思想について教えを請う場面が描かれています。一方、『列子』仲尼篇では、楽正子輿（がくせいしよ）が公孫龍の「白馬非馬」説を批判するのに対し、魏牟が公孫龍を擁護する場面が登場します。この記述から、魏牟が公孫龍の門人であった可能性や、政治への関心が薄かったことが伺えます。『文心雕龍』諸子篇でも、魏牟と公孫龍は併せて言及されています。

さらに、魏牟は詹何（せんか、詹子とも）という別の道家思想家とも交流を持っていました。『呂氏春秋』審為篇には、両者の道家思想に関する対話が記録されています。同様の対話は、『荘子』譲王篇や『淮南子』道応訓にも、より詳細で賛辞を込めた形で伝えられています。これらの記述は、魏牟が当時、道家思想界において重要な役割を果たしていたことを示唆しています。

魏牟は、思想家としての活動だけでなく、政治的な場面にも登場します。『戦国策』趙策には、魏牟が秦の宰相・范雎に「贅沢は身を滅ぼす」と説いたエピソード（平原君を通して伝えられたもの）や、魏の孝成王に重臣・建信君を重用することに対する警告を行ったエピソードが記されています。これらの記述から、魏牟が政治にも関与し、その知恵と影響力を発揮していたことがわかります。これらの事績から、魏牟の活動時期が紀元前3世紀中頃と推定されています。『説苑』敬慎篇には、魏冄（ぎけい）という人物との交流も伝えられています。

このように、魏牟は道家思想家として、また政治に関与する人物として、多様な側面を持つ人物でした。現存する資料は断片的ですが、これらの記録から、魏牟が当時の思想界や政治に影響を与えた重要な人物であったことがわかります。彼の思想は、直接的な著作こそ残っていないものの、後世の思想家たちに影響を与え、中国思想史における重要な一端を担っていると言えるでしょう。

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