鯱バス

鯱バス株式会社

愛知県名古屋市を本拠地とする鯱バス株式会社は、観光貸切バスや企業の従業員送迎、特定の施設の利用者輸送など、幅広いバス事業を手がける交通事業者です。地域における移動手段の確保や観光振興に貢献しています。

沿革

鯱バスのルーツは、1953年（昭和28年）11月3日に創業された中部観光自動車に遡ります。名古屋で複数の事業を営んでいた山田泰吉氏によって設立され、当初は観光バスとタクシー事業を展開していました。しかし、創業者が新たに東京で開業した大型キャバレー事業の経営が行き詰まった影響を受け、中部観光グループ全体の経営も悪化します。

こうした状況の中、1965年（昭和40年）4月、東名高速道路の開通を見据えて名古屋エリアへの進出を図っていた東急グループが、中部観光自動車を買収し傘下に収めました。「東急鯱バス」として東急グループの一員となり、その後の基盤強化が進められます。

一方で、タクシー事業部門は、昭和40年代から50年代にかけて同業他社との合併等により規模を拡大しましたが、2003年（平成15年）には福岡の第一交通産業へ譲渡され、「鯱第一交通」として再編されました。

2009年（平成21年）、東急グループは不動産事業を除くバス関連事業を、投資ファンドであるジェイ・ウィル・パートナーズへ売却することを決定します。これに伴い新会社が設立され、同年10月1日をもって株式が譲渡され、東急グループから独立しました。この時、社名が現在の「鯱バス株式会社」に変更され、長年親しまれた鯱とTSBのロゴマークも、TSBの文字がない新たなデザインに改められました。

本社は2012年（平成24年）7月17日に、現在の名古屋市南区滝春町へ移転しました。以前の本社があった場所は名古屋北営業所として活用され、旅行業の主要拠点となっています。主要株主は、ジェイ・ウィル・パートナーズから、2013年（平成25年）1月には投資会社ロータス・キャピタル・パートナーズ傘下の体制へと変わりました。

事業エリアの拡張としては、2021年（令和3年）4月1日付で子会社であったさくら交通を吸収合併し、静岡さくら営業所を開設。これにより、静岡県にも拠点を構えることとなりました。また、近年では環境負荷の低減にも力を入れており、2024年（令和6年）には愛知県内で初めて、大型の電気自動車バスを導入し、特定の送迎用途で運行を開始しています。

事業内容

鯱バスは、主に以下の3つのバス事業を展開しています。

観光バス事業

団体旅行や個人からの依頼に応じ、大型貸切バスによる観光輸送を提供しています。車両には、創業時に考案された吉川英治氏の小説『新書太閤記』にちなんだ人物名が、現在も一両ごとに愛称として名付けられています。これらの愛称は車両の代替時にも引き継がれるのが通例ですが、かつては時代の最新鋭車両に合わせ改名が行われた例もありました。かつての最上級車は「太閤」「淀君」でしたが、現在は「関白」がその位置づけにあります。静岡さくら営業所の車両には、静岡県にゆかりのある武将などの愛称が採用されています。

車体の塗装デザインは地元ゆかりの杉本健吉画伯が、ロゴデザインは河野鷹思氏が手掛けたもので、そのデザインは長く親しまれています。過去には、当時の最新鋭航空機であるボーイング747と同等のシートを採用したバスや、バスガイドの人形をお土産として提供するなどのユニークなサービスも行われていました。

大規模イベントでの実績としては、2005年に開催された愛・地球博において、主要な駐車場と会場を結ぶシャトルバスの運行を担いました。三菱ふそうのエアロクィーンなどが使用され、他の運行便と比較してグレードの高い車両を投入しました。

特定バス事業

日本製鉄名古屋製鉄所の従業員の通勤および構内移動を主な目的とした特定輸送を担っています。これらの路線は一般の乗客は利用できず、関係者のみに限定されています。通勤路線は製鉄所周辺の社宅や駅、さらには知多郡方面など複数の系統で運行されています。構内輸送は製鉄所内の各施設間を結ぶ路線があります。

この特定バス事業では、用途に合わせた様々な車両が使用されています。長年にわたり企業輸送で活躍する三菱ふそうエアロバスや、日野レインボーシリーズ、日野ブルーリボンⅡなどが運用されています。特に日野3代目レインボーは、鯱バス初のノンステップバスとして特定輸送用途で導入されました。また、2024年に導入された大型電気バスもこの事業で活用されています。

その他バス事業

上記の事業に加え、様々な企業や学校からの依頼に基づき、従業員や学生の送迎バス運行を受託しています。主な契約先には、東レ、大同特殊鋼、中部国際空港関連企業、三菱航空機・三菱重工、日清オイリオ、名古屋市中央卸売市場南部市場などがあります。また、椙山女学園大学日進キャンパスへの学生輸送も行っています。地域のイベント、例えば東海秋祭りでは、会場と駅などを結ぶシャトルバス運行も行います。高速バス運行事業者であるWILLER EXPRESSの運行受託も手がけています。

過去の実績としては、豊田自動織機の送迎や、愛知万博、長野オリンピックといった大規模イベントにおけるシャトルバス運行経験を持ちます。

車両

鯱バスが保有する車両は、長年にわたり三菱ふそう製が中心的な役割を果たしてきましたが、近年は日野自動車製やいすゞ自動車製の車両も積極的に導入されています。現在の主な車両ラインナップには、観光・貸切用途の三菱ふそうエアロバス、いすゞガーラ、日野セレガなどがあります。特定輸送用途では、三菱ふそうエアロバス、日野レインボーシリーズ、日野ブルーリボンⅡ、三菱ふそうエアロスターなどが幅広く使用されています。

過去には、三菱ふそうのMR型、MP型、エアロミディ、初代エアロ、エアロミディSといった歴史ある車両や、日野2代目レインボーなども活躍しました。特に三菱ふそうエアロミディは、2005年の愛・地球博輸送に投入された後に引退しています。

2023年（令和5年）9月現在の保有台数は、貸切バスが60両、輸送バスが27両、特定バスが13両となっています。

その他の事業

バス事業以外にも、旅行業としてツアーの企画・運営を行っています。また、自動車整備業として自社バスのメンテナンスに加え、一般車両向けの整備サービスも提供しています。さらに、飲食業も手がけているなど、多角的な事業展開を行っています。

営業所

主要な営業拠点として、愛知県内に本社営業所、東海営業所を、岐阜県に岐阜東濃営業所を、そして静岡県に静岡さくら営業所を配置しています。

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