鳥兜

鳥兜（とりかぶと）

鳥兜は、日本の古典芸能である雅楽の中の「舞楽」において、演者が身につける「常装束（じょうしょうぞく）」と呼ばれる正式な衣装の一部をなす、独特な形状の頭部装飾品です。単なる飾りではなく、舞楽の演目や役に合わせた重要な構成要素となっています。

その起源は古く、伝説上の霊鳥である鳳凰の頭部を象ったものと伝えられています。外見は、鶏の鶏冠（とさか）に似た、天に向かって長く伸びる縦長のフォルムが特徴です。また、後頭部の首筋を覆うように「しころ」と呼ばれる部分が付属していますが、これは武士の兜にある防具としてのしころとは性質が異なります。

名前に「兜」とありますが、実際に頭部を保護する役割は持ちません。代わりに、錦や金襴といった豪華絢爛な織物や刺繍を用いて、大変華やかに仕立てられています。その色彩や装飾の細部は、演じられる舞楽の演目によってわずかに異なり、それぞれの舞の雰囲気を一層引き立てる役割を果たします。例えば、演目によっては青色や緑色を基調としたもの、赤色や金色が多用されたものなどが見られます。

舞楽での使用が最もよく知られていますが、鳥兜はこれに限らず、日本の各地で行われる神社や仏閣に由来する民俗芸能においても、特別な装束の一部として用いられることがあります。これらの芸能においても、神聖な儀式や舞の雰囲気を高めるために、鳥兜はその存在感を示しています。

鳥兜の持つ優美で格式高い意匠は、舞楽の世界を超えて、日本の伝統文化の中に広く浸透しています。その美しい姿は、古くから和服の文様としても非常に人気があります。特に、青海波（せいがいは）と呼ばれる波形の連続文様の中に、まるで水上を漂うかのように鳥兜が描かれたデザインはよく知られています。また、女性の婚礼衣装や特別な晴れ着である打掛（うちかけ）には、季節の象徴である紅葉、力強い響きを持つ火炎太鼓（かえんだいこ）、そして鳥兜という三つの要素を組み合わせた独特な文様が存在します。これは「紅葉賀模様（こうようがもよう）」と称され、その名の通り、舞楽の演目「紅葉賀」に由来すると考えられており、非常に格式高く縁起の良い文様として尊ばれています。

鳥兜は、単なる装飾品ではなく、日本の古典芸能や伝統文化の深遠さ、そして工芸技術の粋を示す象徴の一つと言えるでしょう。その美しい形状は、現代においても多くの人々を魅了し続けています。

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