鳥羽絵

鳥羽絵：江戸時代のユーモラスな絵画表現

鳥羽絵とは、江戸時代から明治時代にかけて流行した、ユーモラスな表現が特徴の浮世絵の一種です。その名称は、平安時代に描かれたとされる『鳥獣人物戯画』絵巻に由来しており、コミカルな人物や動物の描写、デフォルメされた表現などが特徴です。鳥羽絵は、写実的な浮世絵とは一線を画し、大衆に親しまれる軽妙洒脱な絵画として発展しました。

歴史と作例：戯画の伝統からジャーナリズムへ

平安時代の『鳥獣人物戯画』に代表されるように、日本には古くから戯画の伝統がありました。この伝統は、浮世絵にも受け継がれ、リアルな表現とユーモラスな表現が融合した作品が数多く生み出されました。北尾政演の絵本『四季交加』の序文で初めて使われたとされる「漫画」という言葉は、まさにこの時代の戯画表現を指すものであり、山東京伝の黄表紙挿絵などもその範疇に含まれるでしょう。

葛飾北斎の『北斎漫画』は、必ずしも全てが戯画ではないものの、斬新な人物表現で「漫画」という言葉を一般に普及させる役割を果たしました。それ以前は、滑稽な略筆体の作品を「鳥羽絵」と呼んでおり、大坂の耳鳥斎による『絵本水也空』などがその代表例です。耳鳥斎は上方で活躍し、『絵本水也空』、『画話耳鳥斎』、『歳時滅法戒』、『絵本古鳥図加比』など、ユーモラスな人物画を数多く残しています。

歌川広重もまた、戯画的なセンスに優れた絵師でした。『東海道五十三次』は十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の影響を受けており、「赤坂」などは特に戯画的な趣が強い作品として知られています。「御油」では、宿の飯盛り女が客を引っ張り込む場面など、滑稽な描写が見られます。広重は晩年まで戯画的な作品を描き続け、門弟である三代歌川広重や、渓斎英泉も同様の作品を残しています。

歌川国芳は鳥羽絵の中でも特に特筆すべき存在です。「荷宝蔵壁のむだ書」のようなユニークな作品や、多くの人物が絡み合ったシュルレアリスム風の作品など、その表現は多様性に富んでいます。しかし、これらの作品には、社会への鋭い諷刺が含まれていたわけではありませんでした。

鳥羽絵の国際化：諷刺とジャーナリズムとの融合

幕末になると、物価高騰や天然痘流行といった社会問題を題材にした鳥羽絵が登場します。落合芳幾の「豊穣お蔭参之図」は、皮肉を込めて当時の世相を描写しています。明治維新後も、鳥羽絵は発展を続け、イギリスのチャールズ・ワーグマンやフランスのジョルジュ・ビゴーといった海外の漫画家も、日本の浮世絵に影響を与えました。

河鍋暁斎は、北斎の影響を受けつつ、独自の「狂画」を描き、フランスのフェリックス・レガメと漫画合戦を行ったことでも知られています。「狂画」は狂歌の絵画版と捉えることができ、笑いの中に鋭い社会性と現実認識を含んでいました。小林清親は、ワーグマンの影響を受け、新聞ジャーナリズムと密接に結びついたポンチ絵を数多く制作しました。「新版三十二相」、「百面相」、「百撰百笑」など、教訓画的な漫画も多く手がけています。

明治期の鳥羽絵は、ジャーナリズムの一環として、人々の視覚に訴える役割を果たしました。好事の産物としてだけでなく、社会問題や時事問題への関心を高める手段として、重要な役割を担っていたのです。

歌舞伎舞踊『鳥羽絵』

鳥羽絵は、歌舞伎舞踊の題材にもなっています。清元の『鳥羽絵』は、二代目桜田治助作詞、清澤萬吉作曲、藤間勘助ほか振付による作品で、文政2年9月に初演されました。

参考文献

吉田漱　『浮世絵の基礎知識』　雄山閣、1987年
吉田漱　『浮世絵の見方事典』　北辰堂、1987年
* 佐藤道信　『河鍋暁斎と菊池容斎』〈『日本の美術』325〉　至文堂、1993年

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