鴻雪爪

鴻雪爪（おおとり せっそう）：幕末・明治の宗教改革者

鴻雪爪（1814年2月20日 - 1904年6月18日）は、幕末から明治にかけての激動の時代に、宗教家として独自の足跡を残しました。備後国（現在の広島県）因島の出身で、曹洞宗の僧侶としてそのキャリアをスタートさせましたが、既成概念にとらわれず、仏教界の改革に尽力し、最終的には神職へと転身するという異色の経歴を持っています。

生い立ちと出家

文化11年（1814年）に、宮地家の次男として生まれました。宮地家は、醍醐天皇の皇子である源高明を祖とする名門であり、代々、地域に影響力を持つ家柄でした。6歳で石見国津和野の大定院に入り、鉄藍無底のもとで修行を始めました。鉄藍無底は因島出身で宮地家と縁があり、雪爪の才能を見抜いて師弟関係を結んだと伝えられています。12歳で越前国武生の龍泉寺、次いで美濃国大垣の全昌寺へと移り、修行を重ねました。

仏僧としての活躍

天保9年（1838年）、25歳で鉄藍無底の首座となり、印可証明を受けて嗣法相続しました。全昌寺は大垣藩主・戸田氏の菩提寺であり、雪爪は若き日の小原鉄心と親交を深めました。天保14年（1843年）には、師の鉄藍無底が加賀国大乗寺に昇任したのに伴い、祇陀寺に移りました。弘化3年（1846年）には全昌寺に戻り、住職となりました。当時からその名声は高く、「老人では宇治興聖寺の回天、若手では美濃全昌寺の雪爪」と評されたほどです。

安政5年（1858年）、松平春嶽に招かれ、越前国孝顕寺の住職に就任。春嶽による藩政改革に参画し、横井小楠を裏方として補佐しました。慶応3年（1867年）には、井伊直憲に招かれ、近江国彦根の清凉寺住職となりました。

明治維新と仏教改革

明治維新後、雪爪は新政府に対して積極的に提言を行いました。慶応4年（1868年）には、五箇条の御誓文を受けて建白書を提出。その中で、海外との交流が不可避となる以上、キリスト教の禁教は不可能であること、外来宗教に対抗するため、仏僧と神官が国民を教導する必要があることを訴えました。明治2年（1869年）には、教導局の御用掛に任ぜられましたが、神官中心の排仏・排キリスト教的な空気に失望し、辞職して隠棲しました。

しかし、小原鉄心らの働きかけにより再び上京し、島地黙雷らと交流を深めました。明治4年（1871年）には、再び建白書を提出。その中で、僧侶の肉食妻帯の許可を求めました。当時の僧侶の多くが戒律を破り、隠れて肉食妻帯を行っていた実態を鑑み、僧侶が公然と活動できるよう、法的な問題を解消する必要性を訴えたのです。この建白書がきっかけとなり、明治5年（1872年）には、肉食妻帯解禁の太政官布告が出されました。

神職への転身と晩年

明治5年（1872年）9月、太政官から左院少議生に任ぜられるとともに、還俗を命じられ、鴻姓を名乗るようになりました。同年11月には、大教院長および東京金比羅神社祠官に任ぜられ、明治6年（1873年）には権大教正となりました。明治8年（1875年）に大教院が廃止されると、神道管長に就任。明治18年（1885年）には、御嶽教の内紛を収めるために尽力し、2代目管長に就任しました。その後は、教務を当事者に任せ、東京飯倉の自邸で悠々自適の生活を送りました。明治37年（1904年）6月18日、91歳でその波瀾万丈な生涯を閉じました。

鴻雪爪は、変化の激しい時代において、常に現状に甘んじることなく、宗教界の改革を追求し続けた人物でした。その柔軟な思考と行動力は、現代においても学ぶべき点が多くあります。

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