鷺舞

鷺舞（さぎまい）

鷺舞は、主に八坂信仰の神社で奉納される伝統的な舞踊であり、島根県津和野町と京都市の八坂神社で奉納されるものが特に知られています。津和野町の鷺舞は「津和野弥栄神社の鷺舞」として、1994年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。

歴史

鷺舞の源流は、八坂神社の祇園祭で奉納されたものとされ、中国の七夕伝説に由来すると言われています。名前は「鷺舞」ですが、歌詞にもあるように、この「鷺」は鵲（かささぎ）を指すとも考えられています。鵲は七夕伝説において、牽牛と織女のために天の川に橋を架けた存在であり、歌詞もその伝承に基づいています。

しかし、京都市内には鵲が飛来しないため、人々は鵲を知らず、白い鷺に笠を被せて鵲に見立てたと言われています。鵲の姿が黒色であるのに対し、鷺の姿が白いのはそのためです。

津和野の鷺舞は、山口祇園会を経て伝えられたもので、1542年、当時の城主である吉見大蔵正頼が、大内義興の息女を迎え入れた際に、彼女の疫病除けを祈念して始められました。その後、戦乱によって一時中断されましたが、1645年に亀井茲政が坂田屋兵左衛門と野村仁左衛門の二人を京都に派遣し、鷺舞を直接習得させたことで、津和野では以後400年にわたり、一度も途絶えることなく奉納され続けています。

その間、様式が変わったり、儀式が簡略化されたりするなどの変化はありましたが、貴重な文化遺産として、1994年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。

一方、本家である八坂神社では、絢爛豪華な山鉾や傘鉾巡行に押されるように存在感が薄れていき、江戸時代中期には途絶えてしまいました。その後、戦後の1956年に、祇園会保存会の一員であり狂言師でもあった木村正雄が、津和野の鷺舞を習得したことで復活し、再び奉納されるようになりました。

今日では、山口市（山口祇園祭鷺の舞）、秋田県潟上市（飯田川鷺舞まつり）、浅草寺（浅草寺白鷺の舞）などでも奉納されています。

津和野の鷺舞

現在、一般的に鷺舞といえば、津和野の鷺舞を指すことが多いです。

日程、行程

津和野の鷺舞は、弥栄神社の例祭「祇園御神事」に合わせて、伝統的に毎年7月20日と7月27日に奉納されます。鷺舞の行事は、「頭屋」と呼ばれる者が一切を取り仕切るしきたりとなっています。

頭屋は舞いを奉納する主役であり、舞を演じる舞方、お囃子のための楽器を演奏する囃方、唄を歌う唄方、行列を守護する警固など、約20人で構成される行列で祭りを盛り上げます。彼らも頭屋に含まれ、区別するために鷺舞頭屋と呼ばれることがあります。

まず、頭屋が八坂神社の神木に注連縄を奉納した後、20日の未明に頭屋が触れ太鼓を叩きながら「頭屋におじゃれや、触れ太鼓を叩かしょう」と大声で呼び歩き、祭りが始まります。その後、頭屋と鷺舞頭屋が頭屋屋敷（現在は町民センター）に集合し、祭壇の前で儀式を執り行います。儀式が終わると、弥栄神社に舞いを奉納し、神輿を迎えてから、神輿を先頭に鷺を筆頭とする舞方、囃方などを連れた行列が、町内各所で舞を奉納しながら市街を練り歩きます。最後に頭屋で舞いを終えると、鷺は一旦御旅所に戻り、渡御を終えます。

一週間後の27日は還御の日であり、再び神輿に供奉しながら（ルートは若干異なります）、弥栄神社に戻り、最後に社殿の前で舞いを奉納して全てを終えます。その後、神社境内にて笠砕という者が、翌年の頭屋を決めるための引き継ぎを行います。翌年の頭屋は鷺が舞い込むのを待つため、舞い込み頭屋と呼ばれます。

各場所における舞は10分ほどであり、それを一日10-11箇所で行います。鷺舞は津和野の風物詩ともいわれ、1983年からは観光振興の一環として、間の24日にも舞いが奉納されるようになり、弥栄神社境内とJR津和野駅前で行われます。

鷺舞に因み、女子らによる「子さぎ踊り」も奉納されますが、歴史は浅く1958年より子供達に伝統行事に関心を持って欲しいという願いから始められたものです。かつて子鷺も神輿渡御に倣って練り歩いていましたが、現在は行列に加わっていません。子さぎ踊りは地元小学校の3年生-6年生の女子児童が選ばれます。

また、この鷺舞に関連して6月30日には弥栄神社にて茅の輪くぐりが行われ、その後、頭屋によって今年の鷺舞における日程などが打ち合わせられます。

行列の構成

舞方
鷺：雌雄の鷺1人ずつ。頭は桐、羽根は檜で作られており、計15キログラムにも達します。それを身に纏ったまま、長い道中を練り歩くため、重労働です。
棒振、鞨鼓：鷺役と共に舞いを奉納します。
囃方
太鼓、鐘、鼓、笛：各2人ずつ
唄方
唄を唄う。6人
頭屋
祭礼の進行役
警固
行列の守護役

歌詞

唄方が唄う歌詞は以下の通りです。

橋の上におりた　鳥はなん鳥

かわささぎの　かわささぎの

ヤーかわささぎ　さぎが橋を渡した

さぎが橋を渡した

時雨の雨に　ぬれとりとり

ヤーかわささぎ　さぎが橋を渡した

さぎが橋を渡した

前述したように、この歌詞は七夕伝説がモチーフとなっており、かわささぎとは鵲を指します。

各地の鷺舞

八坂神社の鷺舞：祇園祭における鷺舞神事は、江戸中期に途絶えていましたが、1956年に木村正雄によって復興されました。宵山の16日と山鉾巡行・神幸祭の17日、花傘巡行・還幸祭の24日の3日間、八坂神社境内で奉納されています。
飯田川鷺舞まつり：秋田県潟上市で行われる鷺舞。
浅草寺白鷺の舞：浅草寺で奉納される鷺舞。
* 山口祇園祭鷺の舞：山口市内の八坂神社祇園祭で奉納される鷺舞。

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