鹿錫俊

国際政治学者 鹿錫俊

鹿錫俊（ろく しゃくしゅん）氏は、1955年に中国で生まれ、現在は日本を拠点に活動する国際政治学者です。東アジア地域の政治情勢および国家間の関係性を主要な研究対象としており、特に中国近現代史、中でも中国国民政府期の日中関係史や、その時代の指導者である蔣介石に関する詳細な研究で知られています。大東文化大学国際関係学部国際文化学科の教授を務めています。

学術的な道のりとキャリア

鹿氏の学歴は、中国と日本の両国に跨がる点が特徴です。まず、中国の復旦大学大学院で歴史・国際政治学を専攻し、博士課程を修了。1993年には同大学から法学博士の学位を取得しました。その後、日本へ渡り、一橋大学大学院法学研究科でさらなる研鑽を積みました。1995年に同大学院の博士課程単位を取得して満期退学し、一橋大学法学部にて助手として教育・研究に携わりました。また、日本学術振興会の特別研究員としても活動しています。

1998年10月には、一橋大学より改めて博士（法学）の学位を取得しました。その後、2001年に島根県立大学総合政策学部の助教授に就任し、2004年には同教授に昇進しました。そして2005年からは、現在の所属である大東文化大学国際関係学部の教授として、教育と研究活動を精力的に行っています。この間、一橋大学の兼任教授や、中国の南京大学中華民国史研究センターの客員教授も務めるなど、国内外の教育・研究機関との連携も深めています。

主要な研究テーマと業績

鹿錫俊氏の研究は、多岐にわたるテーマをカバーしていますが、一貫して東アジアの複雑な歴史的・政治的ダイナミズムに焦点を当てています。特に、戦間期から第二次世界大戦期にかけての中国国民政府の外交政策、日中戦争の背景と展開、指導者たちの意思決定過程（特に蔣介石の日記など史料を用いた分析）、そして戦後中国における日本人の処遇問題など、特定の歴史的事象を深く掘り下げています。

その学術的成果は、数多くの著書や論文として結実しています。単著としては、『中国国民政府の対日政策：1931-1933』(東京大学出版会、2001年) や、『蔣介石の「国際的解決」戦略：1937-1941「蔣介石日記」から見る日中戦争の深層』(東方書店、2016年) が挙げられます。これらの著作は、緻密な史料分析に基づき、当時の中国の対日戦略や指導者の内面に迫る重要な研究として評価されています。

また、共編著として『中国における共同体の再編と内発的自治の試み』や、文部科学省科学研究費補助金による研究成果報告書も複数発表しています。学術雑誌には、日本語と中国語で多数の論文を寄稿しており、例えば『一橋論叢』、『北東アジア研究』、『近代史研究』、『歴史研究』など、国内外の主要な学術誌でその研究成果を発表しています。これらの論文は、日中間の歴史的対立、中国の対ソ政策、国際情勢と中国の対応、社会保障制度改革、さらには日本の「留用」問題といった、広範なテーマを扱っています。

2012年には、中国研究所より第8回太田勝洪記念中国学術研究賞を受賞しており、長年にわたる中国学術研究への貢献が広く認められています。

研究の特徴と意義

鹿氏の研究は、中国と日本の双方の学術的訓練と経験に基づいているため、両国の視点を取り入れた複眼的かつバランスの取れた分析が特徴です。特に、未公開または注目されていなかった史料（例：蔣介石日記）を発掘し、それらを丁寧に読み解く実証的な手法は、歴史研究における重要な貢献と言えます。これにより、従来の通説や固定観念にとらわれない、新たな歴史理解を提示しています。

その研究成果は、過去の歴史的経緯を深く理解するだけでなく、現代の東アジアにおける政治、安全保障、および国家間の関係性を考察する上でも示唆に富んでいます。歴史研究を通じて、現在の複雑な国際情勢を読み解くための重要な視座を提供し続けています。

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