黒沢丈夫

黒沢丈夫：激動の時代を生き抜いた不屈の精神

黒沢丈夫（くろさわ たけお）は、1913年（大正2年）に群馬県多野郡上野村で生まれ、2011年（平成23年）に97歳で亡くなった、大日本帝国海軍の士官であり、操縦士、そして政治家です。特に、戦後の上野村長としての長年の活動と、日本航空123便墜落事故における卓越した指揮で知られています。

海軍士官としての足跡

黒沢は、群馬県立富岡中学校を卒業後、1932年（昭和7年）に海軍兵学校に入学。1936年（昭和11年）の卒業後には遠洋航海でアメリカを訪れ、その国力に圧倒された経験を持ちます。その後、巡洋艦や駆逐艦での勤務を経て、1937年（昭和12年）に霞ヶ浦海軍航空隊で飛行学生となり、戦闘機操縦士への道を歩み始めました。航空隊を志願した背景には、兵学校時代の成績不振を克服したいという思いがあったようです。

中国戦線では、九六式艦上戦闘機に乗り、爆撃任務などに従事。その後、教官として内地に帰還しますが、訓練中の事故で入院を余儀なくされます。1940年（昭和15年）には元山海軍航空隊へ転任し、再び中国へ。太平洋戦争開戦後は、フィリピンやインドネシア方面に進出し、各地の空戦に参加。アミーバ赤痢を患いながらも、戦闘機隊の指揮を執り続けました。1944年（昭和19年）には、新型戦闘機「雷電」を装備する部隊の飛行隊長に任命されますが、機体の不調などから零戦での出撃を余儀なくされました。その後、南西方面戦闘機隊統合指揮官に任命され、シンガポールで指揮を執りました。

上野村村長としての功績

終戦後、黒沢は復員業務に従事し、1946年（昭和21年）に上野村へ帰郷。当初は公職追放や戦犯扱いを受けるなど、厳しい状況に置かれましたが、1965年（昭和40年）に上野村長に就任すると、村政の立て直しに尽力しました。村の財政再建、道徳教育の推進、そしてイノブタ畜産や味噌製造などの産業振興に力を入れ、過疎化が進む村の活性化に貢献しました。

日本航空123便墜落事故での活躍

1985年（昭和60年）の日本航空123便墜落事故では、その卓越した指揮能力が発揮されました。墜落現場が上野村の山中であると判明すると、救援活動を迅速かつ的確に指揮。自衛隊や警察、報道陣の受け入れをスムーズに行い、事故対応を円滑に進めました。その冷静な対応と遺族への配慮は、多くの人々に感銘を与えました。村には慰霊の園が建設され、毎年慰霊祭が執り行われています。

その他の活動

1995年（平成7年）からは全国町村会会長として、地方自治の発展にも貢献しました。また、上野村長としては、平成の大合併に際し、「合併しない宣言」を出すなど、独自の村づくりを貫きました。その生涯は、著書『過疎に挑む―わが山村哲学』、『道を求めて―憂国の七つの提言』、『わが道これを貫く』にも記されています。

黒沢丈夫は、激動の時代を生き抜き、その不屈の精神とリーダーシップで、故郷の発展と人々の幸福のために尽力した人物として、後世に語り継がれることでしょう。

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