元山海軍航空隊

元山海軍航空隊は、大日本帝国海軍が太平洋戦争中に運用した航空隊であり、二つの異なる部隊を指します。一つは開戦当初から存在した陸上攻撃機部隊、もう一つは終戦間際に編成された戦闘機訓練部隊です。

初代：陸上攻撃機部隊

1940年（昭和15年）に第十五航空隊を改編して編成されたのが、初代の元山海軍航空隊です。編成地は現在の北朝鮮・元山に置かれました。当初は陸上攻撃機と艦上戦闘機を装備する戦爆連合部隊でしたが、1942年（昭和17年）9月20日に戦闘機隊が分離され、第二五二海軍航空隊として独立。以降は陸上攻撃機専門部隊として活動し、同年11月1日に第七五五海軍航空隊と改称されました。

第十五海軍航空隊

元山海軍航空隊の前身である第十五海軍航空隊は、1939年（昭和14年）11月15日に日中戦争の激化に伴い、九六式陸上攻撃機と九六式艦上戦闘機で臨時編成されました。任務終了後、機体は元山海軍航空隊に引き継がれ、隊員の半数は新たに編成された美幌海軍航空隊の基幹要員として異動しました。

編成と活動

元山海軍航空隊は、第十五航空隊の装備と人員を継承し、美幌海軍航空隊と共に第二連合航空隊および第二十二航空戦隊に所属しました。美幌空は陸攻隊が主体でしたが、元山空は戦闘機要員を多く抱え、両隊は密接な連携を保ちました。

1940年 10月1日、元山航空隊は正式に開隊し、陸攻48機と艦戦48機を保有。支那方面艦隊第二連合航空隊に所属しました。

1941年1月15日、第十一航空艦隊が新編され、二連空は第二十二航空戦隊に改編されました。4月上旬には内南洋に進出し、パラオ諸島やサイパン島などで訓練を実施しました。4月下旬には漢口に進出し、重慶爆撃を開始。8月31日には80機による最後の重慶・成都爆撃を敢行しました。

太平洋戦争開戦後は、12月10日のマレー沖海戦において、美幌空・鹿屋空と協力し、イギリス戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈する戦果を挙げました。その後、蘭印作戦やビルマ攻略作戦を支援し、ラバウルへの転戦も行いました。1942年5月には珊瑚海海戦に参加しましたが、戦果は挙げられませんでした。

1942年 9月20日、戦闘機隊が第二五二海軍航空隊として分離独立し、11月1日に第七五五海軍航空隊に改称。以降、マーシャル諸島やギルバート諸島の哨戒任務に従事しました。

1943年以降は、ナウル空襲などで大きな損害を受け、機体も九六式陸攻から一式陸攻に換装されました。11月にはギルバート諸島沖航空戦で大きな損害を出し、タラワ島陥落で基地要員も全滅。1944年1月には第二十二航空戦隊が第四艦隊に転籍しました。トラック島大空襲やテニアン島大空襲で壊滅的な損害を受け、3月には他の航空隊と連合して再編されましたが、5月には機体を第一航空艦隊に委譲し、二十二航戦は解散しました。そして、1944年7月10日に解隊されました。

主力機種

九六式陸上攻撃機
一式陸上攻撃機
銀河（十五試双発陸上爆撃機）
九六式艦上戦闘機（戦闘機隊分離まで）

歴代司令

伊沢石之介大佐：1940年 11月15日 - 1941年 10月1日
前田孝成中佐：1941年 10月1日 -
嘉村栄：1942年11月1日 -
楠本幾登：1944年3月4日 - 1944年7月10日解隊

二代目：戦闘機訓練部隊

大東亜戦争末期に、戦闘機搭乗員を養成する訓練部隊として、二代目の元山海軍航空隊が編成されました。これは、初代の元山海軍航空隊とは全く異なる部隊であり、大村海軍航空隊の分遣隊をルーツとしています。当初は慣熟訓練部隊でしたが、沖縄戦に向けた特攻作戦の強化に伴い、教官や訓練生も特攻作戦に組み込まれました。

1944年（昭和19年）8月15日、大村海軍航空隊元山分遣隊が独立し、元山海軍航空隊として新編されました。分遣隊時代から養成中の予科練甲飛13期の訓練を継続しました。1945年2月頃から実戦配備に向けた準備を開始し、雷電などの機種を調達しました。

戦闘参加

1945年3月1日、新編の第十航空艦隊に編入され、3月26日には「天一号作戦」発令により第三航空艦隊の指揮下に入りました。練習用零戦や紫電などの機体を鹿屋飛行場に空輸し、要員は4月2日に出発し、7日に集合しました。4月3日には「神風特別攻撃隊・七生隊」が結成され、沖縄戦に投入されました。4月6日の「菊水一号作戦」以降、七生隊は特攻作戦に参加し、多くの隊員が戦死しました。4月25日には七生隊は第七二一海軍航空隊に編入されました。5月14日まで特攻作戦を続け、以降は防空・直掩任務に従事しました。元山飛行場では、本土決戦に向けた特攻訓練が継続されていましたが、実戦に投入されることなく終戦を迎えました。

主力機種

零式艦上戦闘機
雷電
紫電

歴代司令

藤原喜代間大佐：昭和19年8月15日 -
不詳：昭和19年10月15日 -
青木泰二郎：昭和19年12月15日 - 終戦後解隊

元山海軍航空隊は、太平洋戦争の各局面において、その役割を担いました。その歴史は、大日本帝国海軍航空隊の変遷を象徴するものであり、多くの犠牲の上に成り立っていたことを忘れてはなりません。

もう一度検索