黒田播磨

黒田播磨は、江戸時代後期にあたる幕末期から明治初期にかけて、福岡藩で重要な役割を果たした大老であり、三奈木黒田家の第10代当主を務めた人物です。筆頭家老の地位にあり、特に義弟の加藤司書をはじめとする尊皇攘夷派勢力を熱心に支援し、藩政の激しい動きの中で影響力を持ちました。隠居した後は、一葦（いちい）と号しました。

その生涯は、出生家と養子先を行き来するという複雑なものでした。文政元年（1818年）11月5日、三奈木黒田家第9代当主である黒田清定の子として生まれます。翌文政2年（1819年）12月には、福岡藩の中老であった加藤内匠徳裕の養子となり、加藤半之丞徳蔵と名乗りました。そして天保8年（1837年）9月には、養父の後を継ぎ、加藤家の第10代当主となります。

しかし、その翌年の天保9年（1838年）1月、実家の三奈木黒田家で、養嗣子であった義兄の黒田一修が廃嫡されたため、播磨は実家に戻り、父清定の嗣子となりました。この時、名を黒田三左衛門一整と改めています。さらに天保11年（1840年）4月には、加藤家の家督を養父の実子で自身の義弟にあたる三太郎（後の加藤司書）に譲り、自身は三奈木黒田家の家督を相続して家老に就任しました。この際、福岡藩主の黒田長溥から一字を賜り、黒田溥整と名乗りましたが、弘化元年（1844年）8月からは父と同じく播磨の通称を名乗るようになります。

家老となった播磨は、藩内の政治勢力の中では尊皇攘夷派に比較的近い立場を取りました。彼は自らを「正義派」と呼ぶ政治グループの一員として活動し、義弟の加藤司書や、実妹田鶴子の夫である建部武彦など、尊皇攘夷派の人物を様々な役職に積極的に推薦し、彼らが藩政に関与できるよう働きかけました。

元治元年（1864年）に勃発した第一次長州征討の際、播磨は尊皇攘夷派と連携し、長州藩が恭順の意を示し、さらに征討軍が解兵されるよう、両者の間を取り持つ周旋活動に尽力しました。

一方で、藩主である黒田長溥とは、藩政の運営方針を巡ってしばしば意見の対立が見られました。特に、西洋軍法の採用、役人の人事、そして長州藩への対応などが主な争点でした。また、家老たちの間でも、播磨らが属する「正義派」（勤王派）と「佐幕派」との間で対立が激化していきました。

元治2年（1865年）2月、播磨は加藤司書が長州征討軍解兵において挙げた功績を高く評価し、藩主らの反対を押し切って司書を家老に昇進させました。しかし、この人事は浦上信濃、小川讃岐、野村東馬といった佐幕派家老の一斉辞任を招き、藩内の勤王派が制御を失い暴走する一因となります。犬鳴御別館事件などの混乱が起こり、さらに第二次長州征討の決定により司書の解兵の功績が否定されると、司書は家老を罷免されました。これを機に福岡藩の藩論は佐幕派へと一転し、勤王派に対する大規模な粛清、通称「乙丑の獄」が断行されました。この事件により、多くの尊皇攘夷派の人々が処罰され、播磨自身も全ての役職を解かれ、自宅での謹慎（蟄居）を命じられることとなりました。

しかし、その後の情勢の変化、特に戊辰戦争の進展により、福岡藩の藩論が再び勤王へと傾くと、慶応4年（1868年）2月、播磨は赦免され、再び藩政の中心へと復帰を果たします。明治2年（1869年）2月、老齢を理由に隠居することを決意し、名を一葦と改めました。

明治18年（1885年）12月13日に死去。享年68歳でした。墓所は、三奈木黒田家の菩提寺である朝倉市の清岩禅寺（清岩寺）にあります。死後、明治44年（1911年）1月には、生前の功績に対し従四位が追贈されています。また、播磨の孫にあたる黒田一義は、後に男爵を授けられています。

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