黒須正明

黒須正明：ユーザインタフェース研究の先駆者

黒須正明（くろすまさあき）氏は、1948年生まれの日本の研究者であり、ユーザインタフェース、特にユーザ工学やUX（ユーザーエクスペリエンス）分野における第一人者として知られています。ユーザービリティやユーザー中心設計の分野で長年にわたり貢献し、その研究成果は国内外で高く評価されています。

学歴と職歴

黒須氏は、桐朋中学校、桐朋高等学校を経て、早稲田大学文学部心理学科を卒業。その後、同大学大学院文学研究科修士課程心理学専修を修了し、博士課程単位取得満期退学に至ります。その後の職歴は以下の通り、多岐にわたります。

日立製作所中央研究所主任研究員（1978年-1988年）
日立製作所デザイン研究所主任研究員（1988年-1996年）
静岡大学情報学部情報科学科教授（1996年-2001年）
独立行政法人メディア教育開発センター研究開発部教授（2001年-2009年）
独立行政法人メディア教育開発センター理事長補佐（2004年-2008年）
国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科メディア社会文化専攻専攻長（2002年-2007年）
国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科研究科長（2007年-2009年）
国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科メディア社会文化専攻教授（2001年-2013年）
国立大学法人総合研究大学院大学　学長特別補佐 (2009年-2010年)
学校法人放送大学教授（2009年-2017年）

また、東京工芸大学、早稲田大学、東京工業大学など、多くの大学で客員教授や非常勤講師を歴任しています。

研究内容

黒須氏の研究は、ユーザビリティとユーザエクスペリエンスの向上に焦点を当てています。彼は、JISやISOのユーザビリティ関連規格の策定にも深く関わり、その専門知識を活かして、ユーザー中心設計の普及に努めてきました。また、以下のような独自の手法を開発し、ユーザビリティ評価や設計に貢献しています。

DTM (Dual Time Model)：ユーザーの行動を時間軸で捉えるモデル。
sHEM (structured Heuristic Evaluation Method)：体系的なヒューリスティック評価手法。
マイクロシナリオ：ユーザーの具体的な行動シナリオを詳細に記述する手法。
概念依存分析：ユーザーが持つ概念とシステムの整合性を分析する手法。
TFD (Time Frame Diary)：ユーザーの行動記録を時間枠で整理する手法。
UXグラフ：ユーザーエクスペリエンスを可視化する手法。
ERM (Experience Recollection Method)：ユーザーの過去の経験を想起させる手法。

これらの手法は、ユーザビリティ評価や設計プロセスの各段階で活用され、より使いやすく、ユーザー満足度の高いシステムの実現に貢献しています。

理論の提唱

黒須氏は、1999年に「ユーザ工学」を提唱しました。ユーザ工学とは、人間の認知特性や行動特性を考慮した上で、使いやすいシステムを設計するための工学的なアプローチです。さらに、2007年には「人工物発達学（後に人工物進化学）」を提唱し、人工物の進化過程を研究する新たな視点を提示しました。これらの理論は、今日のユーザインタフェース研究の基礎となっています。

受賞歴と役職歴

黒須氏は、その業績が評価され、多くの賞を受賞しています。主な受賞歴として、IFIP Silver Core Award (2013)やIFIP TC13 Pioneer Award (2019)が挙げられます。また、以下の役職を歴任し、学会や業界の発展にも貢献してきました。

APCHI(Asia Pacific Computer Human Interaction)98大会委員長 (1998)
IFIP TC13委員会日本委員 (2012年まで)
JIS TC159／SC4／WG6主査 (2011年まで)
INTERACT2001大会長 (2001)
ヒューマンインタフェース学会ユーザビリティ専門研究会主査 (2008まで)
NPO人間中心設計推進機構(HCD-Net) 理事長 (2015まで)、現在、名誉理事長
TC協会理事 (2007年-2008年)
ICHCI(International Conference on Human Centered Design)大会長 2009,2011
HCII HCI Thematic Area大会長 (2013-現在に至る)

著作

黒須氏は、多数の書籍や論文を発表しており、その著作はユーザビリティやUX分野の研究者や実務者にとって貴重な情報源となっています。主な著作として、以下の書籍が挙げられます。

「UX原論」（2020年、近代科学社）
「人間中心設計における評価」（2019年、近代科学社）
「コンピュータと人間の接点改訂版」（2018年、放送大学教育振興会）
「Theory of User Engineering」（2016年、CRC Press）
「ユーザ調査法」（2016年、放送大学教育振興会）
「研究者の省察」（2015年、近代科学社）
「人間中心設計の基礎」（2013年、近代科学社）
「コンピュータと人間の接点」（2013年、放送大学教育振興会）
「情報機器利用者の調査法」（2012年、放送大学教育振興会）
「人工物発達研究」（2008年,2009年、総合研究大学院大学メディア社会文化専攻黒須研究室刊行）
「ユーザビリティハンドブック」（2007年、共立出版）
「ユーザビリティテスティング」（2007年、翔泳社）
「ペーパープロトタイピング最適なユーザインタフェースを効率よくデザインする」（2004年、オーム社）
「ユーザビリティテスティング」（2003年、共立出版）
「ISO13407がわかる本」（2001年、オーム社）
「ユーザ工学入門-使い勝手を考える、ISO13407への具体的アプローチ-」（1999年、共立出版）
「認知的インタフェース」（1991年、新曜社）

これらの著作は、ユーザビリティやUXに関する基礎知識から応用まで幅広くカバーしており、関連分野の学習や研究に不可欠な資料となっています。

まとめ

黒須正明氏は、ユーザインタフェース研究における先駆者として、その研究成果と提唱した理論は、今日のユーザビリティやUX分野に大きな影響を与えています。彼の業績は、ユーザー中心のシステム設計の重要性を示し、より使いやすい製品やサービスの開発を促進する上で、今後も重要な役割を果たすでしょう。

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