龍山文化

龍山文化

龍山文化は、おおよそ紀元前3000年から紀元前2000年にかけて、主に現在の中国北部、黄河の中流から下流域にかけて栄えた新石器時代後期の文化です。その特徴的な土器から、「黒陶文化」とも称されます。この文化は、先行する仰韶文化や大汶口文化などの地域的な文化を吸収・発展させながら広がり、後の中国文明の礎となる要素を多く含んでいました。

この文化圏は一様ではなく、地理的な条件に合わせていくつかの地域的な区分が見られます。例えば、黄河中流地域を中心に発展した中原龍山文化（河南省や陝西省の一部）、黄河下流域の山東省を中心に栄えた山東龍山文化などがあり、それぞれの地域で独自の特色を持ちつつも、共通の文化基盤を共有していました。龍山文化の影響は黄河流域に留まらず、遠く長江流域やさらに南の海岸部まで及んだと考えられています。

龍山文化を代表する技術として挙げられるのが、高度な土器製作技術です。特に高温で焼き締められた黒陶や灰陶が特徴で、ろくろを用いた均一で薄い器壁の土器が多く作られました。中でも「卵殻陶」と呼ばれる極薄の黒陶は、器壁の厚さがわずか0.5ミリメートルから1ミリメートルという驚異的な薄さで、表面は磨き上げられて漆黒の光沢を放つか、あるいは精緻な文様が彫り込まれていました。この精巧な卵殻陶が広範囲で発見されていることは、当時の技術レベルの高さと文化交流の活発さを示唆しています。また、調理器や食器として使用された鼎（かなえ）、鬲（れき）、鬹（き）、高柄杯（こうへいはい）など、多種多様な器形が出土しており、土器生産の効率化と専門化が進んでいたことがうかがえます。ただし、長江中流域の屈家嶺文化にも黒陶が見られ、相互に影響を与え合った可能性も指摘されています。

土器以外にも、石包丁などの石器、骨器、そして美しいヒスイを用いた装飾品などが出土しています。さらに、文化の後期には青銅器の原型も見られるようになり、これは続く殷や周といった青銅器時代への移行期であったことを物語っています。

社会構造にも大きな変化が現れました。最も顕著なのは、都市的な集落の出現です。初期の住居は地面に穴を掘った竪穴建物が中心でしたが、次第に地上に柱を立てて壁を築く形式へと変化しました。また、周囲を土で突き固めた城壁や堀で囲まれた大規模な集落跡が各地で確認されています。特に陝西省襄汾県の陶寺遺跡（紀元前2500年頃-紀元前1900年頃）は、龍山文化を代表する最大級の都市遺跡の一つであり、当時の社会の組織化の進展を示しています。

経済活動においても、農業と牧畜が大きく発展しました。粟などの雑穀に加え、コメの栽培も始まり、食料生産の基盤が強化されました。また、養蚕が行われ、小規模ながら絹織物が生産されていた痕跡も確認されています。これらの生産活動の発展は、社会に生産物の余剰を生み出し、これが私有財産の概念を生み、貧富の差や階級の分化をもたらしました。父権制社会の成立も、この時期の社会変化の一つと考えられています。動物の骨を使った占いや巫術といった宗教的な行為も行われていたことが分骨などの遺物から推測され、精神文化の発展も見られます。

龍山文化は、新石器時代の人口のピークを迎えましたが、その末期には原因は不明ながら人口が急減したことがわかっています。これと並行して、墳墓に見られた高品質な黒陶などの副葬品も姿を消していきました。この文化の衰退が、続く時代にどのように繋がっていくのかは、今後の研究によってさらに明らかになるでしょう。

龍山文化は、地域による多様性を持ちつつも、高度な技術、都市の形成、社会構造の複雑化といった共通の特徴を通じて、その後の中国古代文明の基礎を築いた重要な時代であったと言えます。

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