龍王城

龍王城：信濃の山上に築かれた要害と清寿軒の奇策

龍王城（りゅうおうじょう）、あるいは竜王城とも表記されるこの山城は、現在の長野県千曲市桑原にあたる地、かつて信濃国更級郡桑原の佐野地区に築かれていました。海抜768メートルという山頂に位置し、三方を急峻な崖に囲まれたその地形は、まさしく自然の要害としての特性を備えています。城跡からは、眼下に広がる聖高原や、戦国時代に幾度となく歴史的な戦いが繰り広げられた川中島、すなわち善光寺平を一望することができ、この城が地域の防衛においていかに重要な地点であったかを物語っています。

地理的には、山塊から南東方向に派生する尾根筋の末端部に位置しています。この尾根からいくつかの谷筋を隔てた南西方向には、同じく佐野地区にある佐野山城跡が存在しており、周辺には連携する山城が築かれていたことがうかがえます。

龍王城に関する歴史的な記録は断片的なものが多いですが、中でも特筆すべきは、戦国時代末期の天正11年（1583年）9月に起こった出来事です。織田信長亡き後の混乱期、徳川家康の傘下に入り、深志城（現在の松本城）を奪還して信濃における勢力を拡大した小笠原貞慶が、筑北方面の安定化を目指し、猿ヶ馬場峠を越えてこの龍王城へと迫りました。

当時の龍王城の守将は清野左衛門でしたが、この時彼は上杉景勝の指揮下で越後国新発田方面へ出陣しており、城には不在でした。城を守っていたのは、左衛門の父である清野清寿軒が率いる、わずか40騎ほどの寡兵に過ぎなかったといいます。圧倒的な大軍を前に、清寿軒は絶体絶命の状況に立たされました。

しかし、清寿軒は決して諦めませんでした。彼は、まずは長沼城へ急使を送り、援軍を要請するとともに、敵に自軍の兵力が少ないことを悟らせないための知略を巡らせました。城郭の要所に多くの旗を立て並べ、さらに藁人形などを活用して兵士が多数いるかのように見せかける「偽兵」を配置するなど、様々な欺瞞戦術を駆使したのです。この巧みな策略が見事に成功し、小笠原氏の大軍は城内に多数の兵がいるものと誤認し、攻めあぐねた末に撤退したと伝えられています。この逸話は、清寿軒の機転と胆力、そして龍王城の地形的な利を最大限に活かした防御戦として、後世に語り継がれています。

清野左衛門の後継者として、助次郎長範の名が知られています。彼は文禄3年（1594年）には猿ヶ馬場峠の留守番役を命ぜられ、250名の士卒を率いたと記録に残っています。これは、龍王城を拠点とした清野氏がその後も一定の勢力を保っていたことを示すものと言えるでしょう。

現在、龍王城は曲輪や堀切などの遺構が残り、城跡として当時の姿を偲ばせます。山頂からの眺望は今も変わらず、この地が要害であったことを実感させてくれます。龍王城は、清野清寿軒による寡兵での大軍撃退という鮮やかな歴史の一幕が、その名と共に記憶されるべき山城です。

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