佐野山城

長野県千曲市の桑原地区、佐野地籍に位置する佐野山城は、佐野城とも称される山城跡です。この城は、地元の有力者であった桑原氏によって築かれたものと伝わります。

築城された背景には、当時の地域の支配構造と地理的な重要性がありました。佐野山城が位置する一帯は、かつて四宮荘と呼ばれる荘園の一部でした。その地頭を務めていた赤沢氏は、信濃の守護家である小笠原氏の分流にあたります。佐野山城を築いたとされる桑原氏は、その赤沢氏の配下にあった勢力です。桑原氏は、猿ヶ馬場峠を越える交通路の要衝に構えられた小坂城と連携し、主要な街道を抑えるための拠点としてこの佐野山城を築いたと考えられています。城の北東には龍王城も位置しており、これらの城が一体となって地域の防御網を形成していたと推測されます。

応永7年（1400年）に信濃で発生した大塔合戦の後も、赤沢氏は村上氏の支配下に留まり、この地域での影響力を保っていました。しかし、小笠原家内部での家督争いや内紛、例えば漆田原の戦いといった混乱に乗じる形で、配下の桑原氏は主家である赤沢氏への圧力を徐々に強めていきました。これによって桑原氏はその勢力圏を着実に拡大し、やがて塩崎の地にまで進出を果たします。この頃から桑原氏は塩崎氏を名乗るようになったと考えられています。

戦国時代中期、甲斐国の武田信玄が信濃への侵攻を進める中で、地域の勢力図は大きく変動します。天文22年（1553年）、武田氏が村上義清を攻略する際、佐野山城を本拠としていた塩崎氏は、千曲川の対岸に位置する屋代氏とともに、武田氏の家臣であった真田幸綱（後の真田綱吉）の調略を受け入れました。この結果、塩崎氏は村上氏から離反して武田氏側に寝返り、佐野山城は武田氏の支配下に入りました。

本能寺の変後の混乱期である天正壬午の乱（1582年）を経て、この地域の支配権は徳川氏と上杉氏の間で争われることになります。天正12年（1584年）、乱終結後も上杉景勝に属していた屋代秀正は、上杉氏を離れて徳川方に寝返りました。これに同調したのが、塩崎氏の塩崎六郎次郎や室賀満俊といった面々です。彼らは、荒砥城（あらとじょう）とこの佐野山城に籠城して徳川方への帰属を鮮明にしました。しかし、彼らの籠城は長くは続かず、8日後には上杉軍の攻撃を受けて両城は自落しました。塩崎氏の一族は麻績（おみ）の地へ逃れたとされ、屋代氏は虚空蔵山城（こくぞうざんじょう）に移って辛うじて勢力を保ち、後に徳川氏の旗本として存続しました。

天正壬午の乱後の上杉氏と小笠原氏による地域の攻防戦においても、佐野山城は隣接する龍王城とともに、その戦略的な立地から重要な役割を担っていたと考えられています。しかし、慶長3年（1598年）に上杉景勝が豊臣秀吉の命により会津へ移封されると、この地域の軍事的な緊張は緩和され、佐野山城もその役目を終えて廃城となったものと推測されています。

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