10ギガビット・イーサネット

10ギガビット・イーサネット（10GbE）とは

10ギガビット・イーサネット（10 Gigabit Ethernet, 10GE, 10GbE, 10 GigE）は、10ギガビット毎秒（10Gbps）の通信速度を持つイーサネット規格の総称です。従来のギガビット・イーサネット（1GbE）を大幅に上回る高速通信を実現し、LAN（ローカルエリアネットワーク）、WAN（広域ネットワーク）、MAN（都市圏ネットワーク）など、様々なネットワーク環境で利用されています。

概要

10GbEは、1GbEの後継として開発され、2002年6月に最初の規格であるIEEE 802.3aeが標準化されました。この規格は、従来のイーサネットが主にLAN環境での利用を想定していたのに対し、初めてWANでの利用を前提とした技術が含まれています。

特徴

高速通信: 10Gbpsの通信速度により、大容量データの高速転送が可能になります。
全二重通信: ギガビット・イーサネットと同様に、全二重通信をサポートし、双方向での同時通信が可能です。
多様な物理層: 光ファイバー、同軸ケーブル、ツイストペアケーブルなど、様々な伝送媒体に対応しています。
ファイバーチャネルとの連携: ファイバーチャネル・オーバー・イーサネット（FCoE）のような技術の基盤となり、高速かつ信頼性の高いストレージエリアネットワークの構築も可能です。
MAC層の互換性: イーサネットフレーム処理は、従来の規格と共通であり、既存のネットワーク環境への導入が比較的容易です。

規格の分類

10GbEの規格は、符号化方式によって大きく4つに分類されます。

1. 10GBASE-R: LAN/MAN向けの規格で、64b/66b符号化を使用します。回線速度は10.3125GBaudです。
2. 10GBASE-W: WAN接続向けの規格で、64b/66b符号化に加え、SONET/SDHの形式に信号変換を行います。回線速度は9.95328GBaudです。
3. 10GBASE-X: 低速伝送を多重化した規格で、8b/10b符号化を使用します。回線速度は3.125GBaudです。
4. 10GBASE-T: ツイストペアケーブル向けの規格で、固有の符号化方式を使用します。回線速度は0.8GBaud（400MHz）です。

ツイストペアケーブル

10GBASE-T

10GBASE-Tは、ツイストペアケーブルを使用した10Gbps接続を可能にする規格で、2006年にIEEE 802.3anとして標準化されました。最大100mの接続をサポートし、1000BASE-Tと互換性のあるRJ-45コネクタを使用できます。オートネゴシエーション機能により、既存のネットワークからのスムーズな移行が可能です。ただし、10GBASE-Tの性能を最大限に引き出すためには、ケーブルやコネクタの性能を向上させる必要があります。また、より安価な選択肢として、通信速度を落とした2.5GBASE-Tや5GBASE-Tも策定されています。

ケーブルの特性

10GBASE-Tで用いられるツイストペアケーブルには、以下の特性が重視されます。

ノイズシールド: UTP（非シールド型）とSTP（シールド型）の2種類があります。STPはノイズ耐性が高いですが、コネクタ形状やアース接続が異なるため注意が必要です。
ケーブル端のノイズ軽減: コネクタ接続部でのノイズを低減するため、撚られていない部分を短くする工夫がされています。
周波数特性: ケーブルのワイヤ径によって周波数特性が異なり、カテゴリー7以上の性能を持つケーブルも存在します。
ACR (Attenuation to Crosstalk Ratio): エイリアンクロストーク耐性を示す指標で、伝送路の要求性能を定義するために参照されます。
コネクタ: シールド方式によって異なるコネクタが使用され、多くの場合RJ-45が利用されます。

変調技術

10GBASE-Tでは、以下の変調技術を組み合わせて10Gbpsの伝送速度を実現しています。

データ符号化: DSQ128による16値パルス振幅変調（PAM16）
誤り訂正: 低密度パリティ検査符号（LDPC）
電力均一化: トムリンソン-原島プリコーディング（THP）

これらの技術を組み合わせることで、ツイストペアケーブル1組あたり2.5Gbps、4組で10Gbpsの伝送を可能にしています。DSQ128は、ブロードコムによって開発され、7ビットを2つのPAM16シンボルに変換することで、SNR（信号対雑音比）を改善しています。

レイテンシと消費電力

10GBASE-Tのレイテンシは最大2.56マイクロ秒と規定されており、音声や高可用性クラスタなど、レイテンシが重要な用途では問題となる場合があります。また、消費電力も課題であり、初期の20W前後から改善されたものの、現在でも1ポートあたり3.5～5W程度の電力を消費します。

10GBASE-T1

車載組み込み機器向けの規格として、2020年にIEEE 802.3chで標準化された10GBASE-T1があります。シングルペアのツイストペアケーブルで最大15mの接続を可能にし、2.5GBASE-T1や5GBASE-T1とともにMultiGBASE-T1として規定されています。

同軸ケーブル

10GBASE-CX4

10GBASE-CX4は、同軸ケーブルを使用した短距離接続向けの規格で、2004年にIEEE 802.3akとして標準化されました。最大15mの接続をサポートし、10Gbpsのデータを4分割して送受信します。

SFP+ダイレクトアタッチケーブル

ダイレクトアタッチケーブル（DAC）は、両端にトランシーバ（SFP+など）を持つケーブル一体型の製品で、10GbEでは10GSFP+Cuという名称で規定されています。SFF-8418に準拠しており、最大7m（パッシブ）または15m（アクティブ）の接続をサポートします。10GBASE-Tよりも低消費電力・低レイテンシで、近距離接続やスイッチのスタック用途に普及しています。

10GBASE-XR

10GBASE-XRは、同軸ケーブル上でEPONプロトコルを使用する規格で、2016年にIEEE 802.3bnで標準化されました。主にHFC（ハイブリッドファイバー同軸）ネットワークにおいて、プロバイダと加入者間の通信に利用されます。

光ファイバーケーブル

ファイバー種別

光ファイバーケーブルには、以下の2種類があります。

SMF（シングルモードファイバー）: 長距離通信用。
MMF（マルチモードファイバー）: 短距離通信用。

64b/66b符号化

10GbE光ファイバー規格の多くで採用されている符号化方式です。送信側で64ビットのデータをスクランブル処理し、2ビットの同期ヘッダを追加して66ビットに変換します。受信側では、同期ヘッダを確認してデータの正当性を検証し、64ビットのデータを取り出します。

光トランシーバー

光ファイバー規格の物理層の一部は、挿抜可能なモジュールで実装されます。10GbEでは主にSFP+が用いられます。

10GBASE-SR: MMFを使用した短距離通信。最大距離はファイバーの種類によって異なります。
10GBASE-LR: SMFを使用した中距離通信。最大10kmをサポートします。
10GBASE-ER: SMFを使用した長距離通信。最大40kmをサポートします。
10GBASE-LRM: MMFを使用した短距離通信。1990年代に敷設されたMMFでの接続を目的としています。
10GBASE-LX4: WDMを使用したMMF/SMF両対応の規格。現在では廃れています。
10GBASE-W: WAN接続を目的とした規格で、SONET/SDHへの接続をサポートします。回線速度は他の10GbE規格よりやや遅いです。
10GBASE-PR: プロバイダ設備からのポイント・ツー・マルチポイント通信を目的とした規格。10G-EPONとして知られています。

端末側の要件

PCやNASで10GbEの速度を活かすためには、LANカードだけでなく、記憶媒体やPC側の端子の転送速度にも注意が必要です。また、十分なメモリを搭載することも推奨されます。

普及状況

10GbEは、ギガビット・イーサネットと比較して導入コストや消費電力の面で課題があり、長らく業務用として利用されてきました。しかし、近年では、個人向けサービスやデータセンターでの導入が進んでおり、普及が加速しています。

日本での使用例

日本インターネットエクスチェンジ: 都内拠点間を10GBASE-ER/LRで接続しています。
BIGLOBE: データセンター間で利用し、長距離区間では光伝送装置を使用しています。
映像制作会社: 社内LANで10GBASE-CX4を導入し、大容量データの共有や集約に利用しています。
NURO光 10G: 個人宅向け下り10GbpsのFTTHサービスで、10GBASE-TでPCに接続します。

まとめ

10ギガビット・イーサネットは、高速通信を実現する重要な技術であり、LAN、WAN、MANなど様々なネットワーク環境で利用されています。光ファイバー、同軸ケーブル、ツイストペアケーブルなど多様な媒体に対応し、様々な用途で活用されています。今後も技術の発展とともに、更なる普及が期待されます。

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