1101年の十字軍

1101年の十字軍：熱狂と悲劇の遠征

1101年の十字軍は、第1回十字軍の成功を受けて、ヨーロッパ各地で高まった熱狂の中で組織されました。特に、第1回十字軍に参加しながらも途中で帰還した者たちや、参加を誓いながら出発しなかった諸侯に対して、教皇パスカリス2世は聖地への再遠征を強く促しました。この遠征は、「臆病者の十字軍」とも呼ばれ、聖地奪還への熱意だけでなく、社会的な圧力や経済的な動機も絡み合って、多くの人々を駆り立てました。

背景：十字軍熱狂と参加者の動機

第1回十字軍の成功は、ヨーロッパに大きな興奮をもたらしました。エルサレム王国の誕生を目の当たりにした人々は、聖地への増援を強く望み、教皇パスカリス2世も新たな遠征軍の編成を企図しました。特に、第1回十字軍から帰還した諸侯は「臆病者」と蔑まれ、再度聖地へ向かうように圧力がかけられていました。例えば、ブロワ伯エティエンヌ2世は、妻に帰国を許されず、再び十字軍に参加することになりました。

また、第1回十字軍に参加しなかった一般の人々も、聖地解放の熱意に駆り立てられました。彼らは、「crucesignati」と呼ばれ、不信心者から聖地を解放し、天国での永遠の安息を求めていました。さらに、貧困から抜け出し、より良い生活を求めて参加した人々もいました。

こうして組織された1101年の十字軍は、第1回十字軍と同様に、巡礼者、騎士、兵士が混成した集団でした。参加者が広範囲にわたったため、複数の集団に分かれて聖地を目指すこととなりました。

ロンバルディア集団：略奪と破滅

1100年9月、ロンバルディア人を中心とした約5万人の集団がミラノを出発しました。彼らはミラノ大司教アンセルモ4世に率いられ、東ローマ帝国領内で略奪行為を始めました。コンスタンティノープルでは宮殿や大聖堂を略奪し、皇帝のペットのライオンを殺害するという暴挙に出ました。東ローマ皇帝は彼らをボスポラス海峡の東へ移し、ニコメディアに宿営させました。

1101年5月、ニコメディアにフランス、ブルゴーニュ、ドイツの騎士団が合流しました。ブロワ伯エティエンヌ2世やトゥールーズ伯レーモンといった有力諸侯も加わり、軍の指揮を執りました。彼らはドリュラエウムを経てイコニウムを目指す予定でしたが、ロンバルディア人の巡礼者たちは、捕虜となっていたアンティオキア公ボエモン1世を救出するため、ニクサルへ向かうことを主張しました。

彼らはアンキュラを占領後、ガングラを攻略、さらにカスタモヌを攻略しようとしましたが、ルーム・セルジューク朝の反撃に遭い、攻略は行き詰まりました。さらに、全軍はダニシュメンド朝領内に入り、メルシヴァンでセルジューク連合軍と激突しました。

メルシヴァンの戦い

メルシヴァンでの戦いは、十字軍にとって壊滅的な敗北となりました。十字軍は5つの部隊に分かれていましたが、セルジューク連合軍の騎兵に包囲され、各個撃破されました。ロンバルディア人部隊は壊滅し、ペチェネグ人部隊は逃亡、他の部隊も退却を余儀なくされました。多くの兵士が殺害され、奴隷にされました。レーモン・ド・サンジルやエティエンヌらは何とか逃れてコンスタンティノープルへ帰還しましたが、ミラノ大司教アンセルモ4世は戦傷がもとで死亡しました。

ヌヴェール集団：奇襲と全滅

ヌヴェール伯ギヨーム2世率いる約1万5千人の集団も、ロンバルディア人集団とほぼ同時期にコンスタンティノープルに到着しました。彼らはロンバルディア人集団とは合流せず、イコニウムを攻撃しましたが攻略に失敗し、ヘラクレア・シビストラでルーム・セルジューク朝軍の奇襲を受け、ほぼ全滅しました。

フランス及びバイエルン集団：悲劇の連鎖

ヌヴェール集団が出発した後、アキテーヌ公ギヨーム9世、ヴェルマンドワ伯ユーグ1世、バイエルン公ヴェルフ1世率いる集団がコンスタンティノープルに到着しました。この軍団も東ローマ帝国領内で略奪行為を働き、ペチェネグ人傭兵部隊と衝突しかけました。彼らはコンスタンティノープルから二手に分かれ、一部は海路でレバントへ向かいましたが、陸路でアナトリア半島を横断した集団も、ヘラクレア・シビストラでセルジューク軍に待ち伏せされ、壊滅しました。ユーグ1世は戦傷がもとで死亡し、オーストリアのイーダは行方不明となりました。

その後：十字軍とセルジューク朝の影響

ヌヴェール伯ギヨーム2世は、生存者を率いてアンティオキア公国に入り、エルサレムに巡礼を果たしましたが、ほとんどの者は西欧へ帰りました。エルサレムに残った者は、1102年のラムラの戦いで戦死しました。

一方、コンスタンティノープルに帰還したレーモン・ド・サンジルは、アンティオキアでタンクレードに捕らえられましたが、後に釈放されました。その後、トルトーザを占領し、後のトリポリ伯国形成の足がかりとしました。

1101年の十字軍の敗北は、ルーム・セルジューク朝のアナトリア半島支配を強化し、コンヤに首都を定める要因となりました。また、イスラム世界にとっては、十字軍が必ずしも無敵ではないことを示すこととなりました。十字軍にとって陸路での安全確保は困難となり、海路が主要な連絡手段となりました。このことは、イタリア諸都市の艦隊が利益を上げる機会を与え、東ローマ帝国はシリアへの陸路での軍事介入ができなくなり、アンティオキア公国は自らの勢力を拡大させることとなりました。

1101年の十字軍は、熱狂と悲劇が入り混じった遠征でした。聖地奪還への熱意は、組織の脆弱性や戦略の欠如によって、悲惨な結果を招きました。しかし、その失敗は、後の十字軍に大きな教訓を残すこととなりました。

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