ダニシュメンド朝

ダニシュメンド朝

ダニシュメンド朝（Dânişmendliler）は、11世紀後半から12世紀後半にかけてアナトリア半島の中部および北東部に存在した、テュルク系のアタベク政権です。オグズ系トルクマーンによって建国され、セルジューク朝の支配下から独立しました。スィヴァスを首都とし、トカットやニクサルなどを支配下におき、最盛期にはアンカラ、カスタモヌ、マラティヤまで領土を拡大しました。ルーム・セルジューク朝や十字軍と激しく争い、アナトリアの歴史に大きな足跡を残しました。

建国者と称号

ダニシュメンド朝は、ダニシュメンド・ガーズィー（Daānishmand Ghāzī）によって建国されました。しかし、彼の生涯に関する歴史的記録は乏しく、その多くは後世の記述に基づいています。ダニシュメンドとはペルシア語で「賢者」、ガーズィーはアラビア語で「異教徒への聖戦に従事する戦士」を意味します。初期の統治者はベグやアミールと呼ばれていましたが、1134年にアッバース朝のカリフから「マリク（王）」の称号を与えられ、遡って歴代の君主も「メリク」と呼ばれるようになりました。

歴史

1071年のマラズギルトの戦いでセルジューク朝が東ローマ帝国に勝利した後、テュルク系民族がアナトリアに入植を開始しました。ダニシュメンド一族もその流れでアナトリア中央部に入り、支配を確立しました。1086年にルーム・セルジューク朝のスルタンが暗殺され、1092年に大セルジューク朝のスルタンが没すると、後継者争いが勃発。ダニシュメンド朝はこの混乱に乗じて独立を果たしました。

当初の首都はアマスィヤでしたが、その後スィヴァスへと移されました。ダニシュメンド朝は、ルーム・セルジューク朝と度々交戦しました。1097年には、第1回十字軍の侵攻によってルーム・セルジューク朝がニカイアを失うと、連合して十字軍と戦いましたが敗北しました。1100年には、ダニシュメンド・ガーズィーの息子アミール・ガーズィー・グムシュティギンが、メリテネの戦いでアンティオキア公国のボエモン1世を捕虜にするなど、十字軍とも激しく戦いました。しかし、ダニシュメンド・ガーズィーの死後、ルーム・セルジューク朝が勢力を盛り返し、ダニシュメンド朝を圧迫するようになりました。

1116年には、ダニシュメンド朝はルーム・セルジューク朝のマスウード1世の即位を支援しています。1130年には、アミール・ガーズィー・グムシュティギンがキリキア・アルメニア王国を攻撃し、アンティオキア公ボエモン2世を戦死させるという活躍も見せました。しかし、1134年にグムシュティギンが亡くなると、後を継いだムハンマド・ガーズィーは軍事力に欠け、その治世は短く終わりました。

1142年にムハンマド・ガーズィーが没すると、ダニシュメンド朝はスィヴァスを拠点とするマリク・ヤギバサン系統と、マラティヤを拠点とするアイヌッダウラ系統に分裂してしまいました。1155年、ルーム・セルジューク朝はスィヴァスのダニシュメンド朝を攻撃しましたが、ヤギバサンはザンギー朝のヌールッディーンの支援を受けました。しかしヌールッディーンが没すると、スィヴァスのダニシュメンド朝は1174年にルーム・セルジューク朝に併合され、4年後にはマラティヤのダニシュメンド朝も同様に併合されて、ダニシュメンド朝は滅亡しました。

民間伝承の中のダニシュメンド朝

ダニシュメンド朝の創始者ダニシュメンド・ガーズィーは、後世に編纂された叙事詩『ダニシュメンドナーメ』の主人公とされています。しかし、この物語の中では、8世紀のムスリム戦士シディ・バッタル・ガーズィーと混同されており、両者の功績が入り混じった形で語られています。また、ダニシュメンド朝の統治者たちは、トルコの民話の中で「メリク・ガーズィー」という名で登場し、各地に彼らの墓所が残っています。しかし、これらは同一人物ではなく、ダニシュメンド朝の異なる王たちであると考えられています。カイセリにはメリクガーズィーという地区も存在します。

歴代君主

以下は、ダニシュメンド朝の主な君主です。

ダーニシュマンド・アフマド・ガーズィー (1097年 - 1104年没)
アミール・ガーズィー・グムシュテギン (1104年 - 1134年没)
マリク・ムハンマド・ガーズィー (1134年 - 1142年没)

スィヴァスのダニシュメンド朝

マリク・ヤギバサン (1142年 - 1164年)
マリク・ムジャーヒド・ガーズィー (1164年 - 1166年)
マリク・イブラーヒーム (1166年)
マリク・イスマーイール (1166年)
マリク・ズンヌーン (1172年 - 1174年)

マラティヤのダニシュメンド朝

アイヌッダウラ (1142年 - 1152年)
ズルカルナイン (1152年 - 1162年)
ナスルッディーン・ムハンマド (1162年 - 1170年)
ファフルッディーン (1170年 - 1172年)
アーファリードゥーン (1172年 - 1175年)
ナスルッディーン・ムハンマド (1175年 - 1178年、二度目)

参考文献

Oktay Aslanapa (1991). Anadolu'da ilk Türk mimarisi: Başlangıcı ve gelişmesi. AKM Publications.
Clifford Edmund Bosworth (2004). The New Islamic Dynasties: A Chronological and Genealogical Manual. Edinburgh University Press.
Fisher, Sydney Nettleton (2000). The Foreign Relations of Turkey 1481-1512. Electronic Journal of Oriental Studies.
"Turkmen Ruling Dynasties in Asia Minor"

外部リンク

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