1932年の航空

1932年は、航空技術の発展が著しく、世界各地で歴史に残る飛行が実現した記念すべき一年でした。個人による限界への挑戦が活発化し、技術的な進歩がそれを可能にしました。

特筆すべきは、長距離飛行や探検的な試みです。アメリカの女性パイロット、アメリア・イアハートは、女性として初めて北大西洋の単独無着陸横断に成功し、その偉業は世界中に報じられました。彼女はさらに、女性初のアメリカ大陸単独横断飛行も達成しています。ドイツのヴォルフガング・フォン・グロナウは、飛行艇による世界一周飛行を111日かけて完遂しました。世界一周の迅速化を目指したアメリカのジミー・マッターンとグリフィン・ベネットは途中で断念しましたが、大西洋横断の最短記録を樹立しました。イギリスのジム・モリソンは、本国から南アフリカへの高速飛行や、大西洋の単独逆横断飛行を成功させました。彼の妻であるエミー・ジョンソンも、後にこの南アフリカへの飛行記録を更新しています。フランス人女性パイロットのマリー・イルズは、パリと東京の間を往復するという長距離飛行を行いました。また、チャールズ・スコットはイギリスからオーストラリアのダーウィンまでの飛行記録を樹立しています。

記録への挑戦は高度や速度の分野でも活発でした。アメリカのルー・ニコルスは女性の飛行機による高度記録を、スイスのオーギュスト・ピカールとマックス・コシンスキーは気球による最高高度記録をそれぞれ更新しました。イギリスのシリル・アンウインスも飛行機による高度記録を塗り替えています。速度記録では、アメリカのジミー・ドーリットルが陸上機の速度記録を大幅に向上させました。気球による長距離飛行記録も樹立されています。オートジャイロの分野でも高度記録が更新されました。さらに、フランシス・マサーリスとルイーズ・セーデンは、女性パイロットによる長時間飛行記録を達成しています。

商業航空も発展を続けました。イギリスのインペリアル・エアウェイズは、アフリカ大陸を縦断する形で、郵便・旅客サービスの終点を南アフリカのケープタウンまで延伸しました。ソビエト連邦では、航空組織Dobrolyotが運行網を拡大し、後にアエロフロートと改称されました。インドでは、ジャハンギール・タタらによって後のエア・インディアとなるタタ航空が設立されるなど、新たな航空会社の設立も見られました。エジプトにもミスル・エアワークが誕生しています。

軍事における航空の役割も増大しました。日本海軍の航空母艦が第一次上海事変に関与し、航空戦力が実戦に投入されました。日本では新たに海軍航空廠が設置され、航空技術の研究開発・生産体制が強化されました。アメリカ海軍は、巨大な飛行船「アクロン」から艦載機「スパローホーク」を運用・回収する試験を実施し、空母以外の運用プラットフォームの可能性を模索しました。

技術開発の面では、高高度飛行のために与圧室を備えた実験機、ユンカース Ju 49が初飛行するなど、将来を見据えた研究が進みました。悪天候下での飛行を可能にする重要な一歩として、アメリカ陸軍のアルバート・ヘーゲンバーガーが計器のみに頼る「盲目飛行」を成功させています。長年生産されてきた古典機であるアブロ 504の生産が終了し、時代の変遷を示す出来事もありました。近代航空の礎を築いた一人であるアルベルト・サントス・デュモンがこの年に亡くなったことも、航空史における大きな出来事でした。

競技会では、ベルリンで国際的な航空機競技会「チャレンジ 1932」が開催され、ポーランドのチームが優勝するなど、技術と技能を競う場も設けられました。日本では、満州国承認に関する写真を運ぶという特殊な目的で、新聞社が高速輸送競争を行い、悲劇的な事故が発生しています。

年末には、その年の航空界に貢献した人々が称えられ、ヴォルフガング・フォン・グロナウ、アメリア・イアハート、オーギュスト・ピカールらがハーモン・トロフィーを受賞しました。1932年は、個人の果敢な挑戦と技術の進歩が融合し、商業・軍事・探検といった多様な分野で航空の可能性が大きく広がった、躍動的な一年でした。

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