1932年7月ドイツ国会選挙

1932年7月31日ドイツ国会選挙：ナチ党の台頭とヴァイマル共和政の危機

1932年7月31日、ドイツで実施された国会選挙は、ヴァイマル共和政の運命を大きく変える転換点となりました。この選挙で、ナチ党（国民社会主義ドイツ労働者党）が初めて第一党の座を獲得したのです。この結果に至るまでの経緯、選挙戦における各党の戦略、そして選挙結果とその後への影響について、詳細に見ていきましょう。

経緯：政権交代とナチ党との密約

当時のドイツは政治的不安定が続き、大統領内閣制の下、首相が頻繁に交代していました。ハインリヒ・ブリューニング首相はナチ党と対立、突撃隊の禁止令を発令するも効果は限定的でした。この状況を打開しようと、大統領側近のシュライヒャー中将は、ナチ党党首アドルフ・ヒトラーとの密約を結びます。その内容は、ブリューニング内閣を打倒し、新内閣成立後に突撃隊禁止令を解除、国会解散というものでした。

この密約に基づき、シュライヒャーはブリューニング首相を罷免、フランツ・フォン・パーペンを新首相に据えます。パーペン内閣は約束通り国会を解散、突撃隊禁止令を解除し、7月31日の選挙へと突入しました。

選挙戦：各党の戦略と暴力の激化

ナチ党は、ゲッベルスの指揮の下、この選挙をヴァイマル共和政への審判と位置づけました。当初はパーペン内閣への批判を控えていましたが、選挙戦の途中で態度を転換し、パーペン内閣をも批判対象に加えます。ナチ党は反共主義、反議会主義を訴え、大規模な宣伝活動で有権者に訴えかけました。ヒトラーによる大規模な遊説も大きな効果を発揮しました。

社会民主党(SPD)はヴァイマル共和政の防衛に重点を置いた選挙戦を展開。ナチスへの批判に終始し、自党のビジョンを明確に示すことができませんでした。

共産党は「社会ファシズム論」に基づき、社会民主党を主要な攻撃対象としました。

中央党はパーペン首相（元中央党員）を激しく批判し、「ブリューニングに戻れ」をスローガンに掲げました。

国家人民党(DNVP)はナチ党と同様、反共、反ヴァイマル共和政を訴えました。しかし、ナチ党の「社会主義的傾向」を批判し、自らを唯一の保守的勢力として位置づけようとした点は対照的でした。

選挙戦は、各党の私兵組織による暴力事件が多発したことも大きな特徴でした。ナチスの突撃隊と共産党の赤色戦線戦士同盟だけでなく、社会民主党の国旗団も暴力事件に巻き込まれました。「アルトナ血の日曜日」事件では、ナチ党のデモ隊と共産党員との衝突により多数の死者が出ました。パーペン内閣は野外集会と行進を禁止、更にはプロイセン・クーデタを実行するなど、状況はますます悪化しました。

選挙結果：ナチ党の圧勝と左翼勢力の後退

選挙の結果、ナチ党は得票率37.3％、230議席を獲得し、初めて第一党となりました。この躍進は、中産階級からの支持獲得が大きな要因でした。国家人民党などのブルジョワ政党の弱体化や、社会民主党と共産党の支持率低下もナチ党の躍進を後押ししました。

しかし、ナチ党の得票率は、それまでの選挙と比較すると伸び悩んでおり、潜在的支援者の不安定さが示唆されました。社会民主党は得票率21.58％、133議席に留まり、共産党は得票率14.32％、89議席を獲得しました。左翼全体としては、支持率は低下しました。

選挙後：パーペン内閣の崩壊と新たな選挙

選挙後、国会は召集されましたが、ナチ党の協力を得た共産党によるパーペン内閣不信任案が可決され、国会は再び解散、新たな選挙へと突入することになりました。この1932年7月31日の選挙は、ナチ党の躍進という劇的な結果だけでなく、ヴァイマル共和政の危機、そしてドイツがナチス政権へと向かう過程における重要な節目であったと言えるでしょう。

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