フランツ・フォン・パーペン

フランツ・フォン・パーペン：ヴァイマル共和政からナチス台頭へ、そしてニュルンベルク裁判まで

フランツ・ヨーゼフ・ヘルマン・ミヒャエル・マリア・フォン・パーペン男爵は、1879年、製塩業で栄えたプロイセン貴族の家に生まれました。陸軍幼年学校を経て軍人となり、参謀本部勤務中にクルト・フォン・シュライヒャーらと知り合います。第一次世界大戦中はアメリカ大使館付き武官として諜報活動に従事していましたが、1916年に国外追放処分を受けました。戦後は中佐で退役し、政界へと進出しました。

華麗なる経歴と複雑な政治的立場

パーペンは、巧みな外交手腕と社交性で知られ、財界にも幅広い人脈を持っていました。中央党に所属しながら、保守派との連携を深め、1925年の大統領選挙ではヒンデンブルクを支持しました。その後、プロイセン州議会議員を務め、1932年には自身の政治団体を結成しました。

短命に終わった首相在任とプロイセン・クーデター

1932年、パーペンはシュライヒャーの推薦により首相に就任しました。しかし、パーペン内閣は貴族出身者や軍人出身者が多く、国民からの支持は得られず、わずか半年で崩壊します。在任中、彼はプロイセン自由州政府を打倒するクーデターを実行しました。これは、彼とシュライヒャー、ガイルによる三頭政治によるもので、ナチ党への接近を試みる戦略の一つでもありました。このクーデターは、後のナチスによる地方政府掌握への前例となったと批判されています。

ナチス政権への接近と「長いナイフの夜」事件

プロイセン・クーデター後、パーペンはナチ党の台頭を目の当たりにします。彼は、シュライヒャー政権打倒を目指してヒトラーと協力関係を築きました。ヒトラーを首相に推す役割を果たし、ヒトラー内閣成立後は副首相兼プロイセン州首相に就任します。しかし、パーペンはヒトラーを完全に掌握できると誤解しており、ヒトラーとの関係は次第に悪化します。1934年、「長いナイフの夜」事件でパーペンはヒトラーの粛清対象となりかけたものの、辛うじて命拾いしました。

外交官としての活動とニュルンベルク裁判

「長いナイフの夜」事件後、パーペンはオーストリア、トルコの大使として外交官としての道を歩みます。オーストリア併合に暗躍したとされますが、自身はヨーロッパ紛争の回避のためだと主張しています。第二次世界大戦後は逮捕され、ニュルンベルク裁判で戦争犯罪人として起訴されますが、無罪となりました。しかし、ナチス政権の権力掌握に重要な役割を果たしたことは否定できません。

戦後と評価

戦後、パーペンは回顧録を出版しましたが、その内容は自己弁護的な記述が多く、批判を浴びました。彼は西ドイツ政界への進出を試みましたが成功せず、1969年に死去しました。パーペンは、優れた外交官でありながらナチス政権の台頭を助けた複雑な人物として、歴史に名を残しています。彼の行動は、権力闘争の激しさ、そして政治的判断の危うさを示す一つの例と言えるでしょう。彼の人生は、ヴァイマル共和政崩壊からナチス時代の到来、そして第二次世界大戦に至る時代の混乱と複雑さを象徴するものです。彼の無罪判決は、ニュルンベルク裁判の是非や、歴史の複雑さを示すものとして、現在も議論が続けられています。

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