1934年の航空

1934年：記録と挑戦、そして広がる空の可能性

1934年は、航空の世界において数々の記録が樹立され、技術の進化が顕著に見られた年となりました。冒険心に満ちたパイロットたちが限界に挑み、新たな航路を開拓しただけでなく、産業としても大きな発展を遂げました。

この年、航空技術の進歩を示す出来事として、ソビエト連邦ではアレクサンドル・セルゲーエヴィチ・ヤコヴレフによってA・S・ヤコヴレフ記念試作設計局が設立されました。これは、後の航空機開発において重要な役割を果たす組織の誕生でした。また、アメリカ陸軍は初期のフライトシミュレータであるリンクトレーナーを導入し、パイロット訓練の効率化を図り始めました。さらに、飛行船から小型機を発着させるパラサイト・ファイターの実用化も進み、F9Cスパローホークが飛行船「メイコン」からの離艦と帰還に成功しています。商業航空の分野では、ヴァーニースピードラインズが旅客運航を開始し、現在のコンチネンタル航空へと繋がる歴史を刻み始めました。

記録への挑戦は、この年の航空史を彩る大きな要素でした。距離の面では、アメリカ海軍のコンソリデーテッドP2Y飛行艇6機が、サンフランシスコから真珠湾までの長距離編隊飛行を成功させました。チャールズ・ウルムはオーストラリアとニュージーランド間の郵便飛行を実施し、大西洋ではアマチュアパイロットのアダモウィッチ兄弟が無事横断飛行を達成しました。アメリカ陸軍のヘンリー・アーノルドが率いるマーチンB-10編隊は、12,875キロメートルにおよぶ長大な飛行を完遂しました。また、ジェームズ・エイリングとレオナード・リードはカナダからイギリスへの飛行に成功し、チャールズ・キングスフォード・スミスはオーストラリアからアメリカ本土への初の飛行をブリスベーンからサンフランシスコまで成し遂げました。

速度と高度の記録も更新されました。ソ連の成層圏気球は高度22,000メートルに到達しましたが、残念ながら降下時の事故で乗員が命を落とす悲劇となりました。一方、ドイツのハイニ・ディットマーはグライダーで4,350メートルの高度記録を樹立し、イタリアのレナト・ドナチはカプロニCa 113で14,433メートルの高高度記録を達成しました。水上機の速度記録では、イタリアのフランチェスコ・アジェッロがマッキM.C.72を駆り、時速709キロメートルという驚異的な記録を打ち立てています。

女性飛行士たちの活躍も目覚ましいものでした。スイス航空ではネリー・ディーナーがヨーロッパ初の女性客室乗務員となりましたが、残念ながら同年、航空事故により亡くなっています。アメリカのローラ・インガルスはメキシコからチリを経てニューヨークへ至る長距離飛行を成功させ、ジーン・バテンはイギリスからオーストラリアまでの女性速度記録を樹立しました。日本では、西崎キクが「白菊号」で満州国への飛行を敢行し、日本女性として初の海外渡航を実現しました。年末には、ヘレン・リッチーがアメリカ人女性として初めて商業航空会社のパイロット（副操縦士）として雇用され、新たな扉を開きました。

この年には、ポーランドで開催された国際的な航空機競技会「チャレンジ 1934」や、オーストラリアのビクトリア州創立100周年を記念した「マックロバートソン・エアレース」など、大規模なイベントも行われました。特にマックロバートソン・エアレースでは、チャールズ・W・A・スコットとトム・キャンベル・ブラックのクルーがデ・ハビランドDH.88コメットで優勝し、その速度性能を世界に示しました。

しかし、全ての挑戦が成功したわけではありませんでした。アラン・コブハムによるイギリスからインドへの無着陸飛行は失敗に終わりました。そして、チャールズ・ウルムはカリフォルニアからハワイへの飛行中に消息を絶ち、行方不明となりました。

このような記録、挑戦、そして事故の渦巻く中で、多くの人々がその功績を称えられました。ハーモン・トロフィーはチャールズ・W・A・スコットやエレーヌ・ブーシェらに、ナショナル・トロフィーは日本の新野百三郎、西崎キクを含む多くのパイロットに、イギリス飛行クラブ金賞はスコットとブラックに、デラボー賞はイタロ・バルボやフランチェスコ・アジェッロらに授与されました。1934年は、航空が単なる冒険から、技術、産業、そして社会生活に深く根差していく過渡期であったと言えるでしょう。

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