1939年の日本競馬

1939年（昭和14年）の日本競馬

昭和14年（1939年）は、戦時色が濃くなる社会情勢の中、日本の競馬界にとって制度面で大きな変革が進んだ一年でした。この年、馬齢は旧表記によって扱われています。

年明け早々の1月には、日本競馬会の安田伊左衛門理事長に対し、競馬場での入場者増加に伴う場内秩序の維持に関する指示が出されました。

3月に入ると、日本競馬会では馬事公苑の設置計画について検討が進められ、その後の3月29日には実際に建設が開始されています。

同時期、国会では競馬と馬事に関する重要な法案が審議され、3月4日には衆議院本会議において「種馬統制法」「軍馬資源保護法」「競馬法臨時特例に関する法律」という、いわゆる馬政三法が可決されました。これらの法律は順次公布・施行され、競馬および馬産体制の根幹に影響を与えました。

特に「競馬法の臨時特例に関する法律」は3月28日に公布され、これにより勝馬投票券の控除率が15%から18%へ、また政府への納付金率も8%から11.5%へと引き上げられることになりました。

4月7日に公布された「種馬統制法」は、すべての競走馬に対し、同法に基づく検査への合格を義務付け、種牡馬や優良繁殖牝馬などへの指定制度を導入しました。同日公布の「軍馬資源保護法」は、軍用馬資源を確保・育成することを目的としており、これが同年7月3日に施行されると、従来の「地方競馬規則」に基づく競馬は廃止されました。軍馬資源保護法の下では、民有馬を軍用保護馬として指定し飼育費を助成するほか、鍛錬馬競走の実施が認められました。鍛錬馬場（競馬場）の設置数や開催回数、開催日数には制限が設けられ、施行者は馬券発行収入の25%を得ることが可能となりました。

また、この4月7日は、明治天皇が馬匹改良のための役所設置を命じた日であることから、同年より「愛馬の日」として定められることになりました。

競走面では、4月9日に中山競馬場で第1回中山四歳牝馬特別が創設され、ソールレデイが初代優勝馬に輝きました。4月29日には横浜競馬場で第1回横浜農林省賞典四歳呼馬が行われ、ロツクパークが優勝しています。これらは現在のクラシック競走につながる重要なレースの創設でした。

競馬業界内部の体制整備も進みました。5月11日には、日本競馬会が調教師、騎手、馬丁のための共済規程や表彰規程を定め、これに伴い関東の「日本騎士倶楽部」と関西の「関西連合騎士会」が解散し、各競馬場ごとの調教師騎士会が新たに組織されました。

不正防止策として、7月3日にはアルコール等の興奮剤使用を取り締まるため、「装鞍所」の設置が決定されています。

社会情勢の影響は競馬開催にも及び、9月1日から毎月1日が「興亜奉公日」とされたことに関連し、競馬開催日がこれに当たる場合は自粛を求める通達が各競馬場長に出されました。

また、競馬場内での入場者のマナー問題に対応するため、9月29日には日本競馬会が競馬に関する標語の募集を開始し、年末にその入選作を発表しています。

その他、戦時下の動きとして、10月24日には支那事変軍馬祭が関係団体合同で開催され、7月19日には1000円以上の高額賞金の一部（1割）を国債で支払うという通知が出されています。

年末の12月31日には、競馬施行規程の一部改正が行われ、競走馬の体高制限が撤廃されたほか、競走に出走可能な馬の資格が「指定種馬」と明確化されました。

この年に新設された主な競走としては、春季の福島競馬場での福島農林省賞典抽籤馬障碍競走や、秋季の札幌競馬場での札幌農林省賞典四歳呼馬競走などがあります。

主要な公認競馬の結果では、春の帝室御賞典をスゲヌマ、秋の帝室御賞典をテツモンが制しました。最も注目された第8回東京優駿競走（日本ダービー）では、クモハタが優勝を飾っています。第2回阪神優駿牝馬（現在のオークス）はホシホマレが勝利しました。

この年は、後に日本競馬を支える多くの名馬（グランドライト、ミナミホマレなど）や人物（福永甲騎手・調教師、松元省一調教師など）が誕生しています。

1939年は、法改正と制度改革が矢継ぎ早に行われ、戦時下の国策に沿った馬事体制の構築が急ピッチで進められた、日本競馬史における転換点とも言える一年でした。

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