1941年の航空

1941年は、世界情勢が第二次世界大戦によって大きく揺れ動く中で、航空の分野においても技術革新と軍事利用の拡大が顕著に進んだ一年でした。数々の新型航空機が初飛行を遂げ、あるいは実戦配備され、空の戦いの様相が大きく変化しました。

この年の幕開けと共に、日本においては長距離飛行を可能にする大型飛行艇、川西「二式大艇」が初めて大空へ飛び立ちました。また、イギリスでも、後に第二次世界大戦を代表する四発重爆撃機の一つとなる「アブロランカスター」の原型機が初飛行を成功させています。

技術的な挑戦も続けられました。2月には日本の河辺忠夫氏が滑空機を用いて13時間41分08秒という滞空時間の日本新記録を樹立し、人力や無動力による飛行の可能性を示しました。同月、イギリス空軍は新型の双発爆撃機「アブロマンチェスター」をフランスのブレスト軍港への空襲で実戦投入を開始しました。

ドイツにおいては、巨大な輸送手段として開発された「メッサーシュミットMe 321 ギガント」輸送グライダーが3月に初飛行しました。これは全幅55メートル、自重35トンに達する驚異的な大きさで、戦略物資や大量の兵員を運ぶことを目的としていましたが、その巨体ゆえに曳航に複数の機体を必要とするなど、運用上の課題も露呈しました。イギリス空軍も3月には四発爆撃機「ハンドレページハリファックス」をフランスのルアーブルへの攻撃に初めて使用しています。

1941年は、航空史における極めて重要な技術的転換点となりました。特にジェット推進航空機の実用化に向けた動きが加速します。ドイツでは4月に「ハインケル He 280」と「メッサーシュミット Me262」という、後のジェット戦闘機の礎となる二つの機体が相次いで初飛行に成功。続いて5月には、イギリスでも純粋なジェット実験機「グロスター E.28/39」が初飛行し、ジェット時代の到来を予感させました。

連合国側でも新たな機体が誕生しました。アメリカでは5月に、後の主力戦闘機として活躍する頑丈な機体、「P-47 サンダーボルト」が初めて空を舞い、8月には艦上爆撃機として高い性能を発揮する「TBF アベンジャー」が初飛行しています。これらの機体は、第二次世界大戦後半の航空戦で重要な役割を担うことになります。

この年の軍事作戦において特筆すべきは、5月に行われた戦艦ビスマルク追撃戦です。イギリス海軍の空母アークロイヤル搭載の旧式複葉機「フェアリーソードフィッシュ」がビスマルクを攻撃し、その舵を損傷させるという決定的な戦果を挙げました。これは、もはや旧式化していた航空機でも、戦術によっては最新鋭の戦艦を機能不全に追い込めることを示し、海戦における航空機の優位性を確立する一因となりました。また、6月のシリア・レバノンを巡る戦闘では、フランス空軍のピエール・ルグローンがドヴォワチーヌD.520戦闘機でイギリスのホーカーハリケーンを撃墜するなどの空中戦も発生しました。

組織面では、民間航空の動きも見られ、2月にフィリピン航空、8月にポルトガルのサタ航空が設立されました。また、アメリカでは6月に陸軍航空隊が大規模な再編を経てアメリカ陸軍航空軍となり、来るべき大戦への体制を強化しました。

極限の技術に挑む試みも行われました。7月には、離陸後に上翼を投棄して高速飛行に移行する「スリップ・ウィング」方式のイギリス実験機「ヒルソンバイモノ」が、実際に上翼の投棄実験に成功。そして10月には、ドイツのロケット機「メッサーシュミット Me163」に搭乗したハイニ・ディットマー氏が、航空機として人類史上初めて時速1000キロメートルを超える速度を記録し、高速飛行時代の幕開けを告げました。

個人の勇敢さが際立ったエピソードも残されています。9月、ソビエトの女性パイロット、エカテリーナ・ゼレンコは多機の敵に対し果敢に挑み、弾薬を使い果たした後、体当たり攻撃によって敵機を撃墜しましたが、自らも命を落としました。この壮絶な行動は高く評価され、レーニン勲章が授与されました。また、ドイツのハンス・ウルリッヒ・ルーデルは急降下爆撃機「Ju 87 シュトゥーカ」でソビエトの戦艦マラートを大破着底させるなど、卓越した技量による戦果を上げています。

年の終盤、12月には日本陸軍の新型戦闘機として液冷エンジンを搭載した「三式戦闘機飛燕」が初飛行。これは、日本の機体設計における新たな試みでした。そして、この月最大の出来事は、12月8日の真珠湾攻撃に端を発する太平洋戦争の開戦です。これにより、航空機は戦争の趨勢を決定づける主要な兵器としての地位を確固たるものとしました。開戦直後の12月11日には、日本海軍航空隊の攻撃により、イギリス海軍の誇る戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスがマレー沖で撃沈され、戦艦単体では航空機による攻撃に対抗しきれない時代が到来したことを決定的に示しました。さらに中国戦線では、アメリカ合衆国義勇軍「フライング・タイガース」が日本陸軍機との間で初の戦闘を経験し、その活躍が広く知られることになります。

1941年は、ジェット推進やロケット推進といった未来の技術が萌芽し、大型化や高速化が進むとともに、航空機が戦略・戦術において中心的な役割を担うようになった、まさに航空史における過渡期であり、重要な礎が築かれた一年と言えるでしょう。

もう一度検索