1945年のラジオ (日本)

1945年（昭和20年）の日本のラジオ

1945年は、日本のラジオ放送にとって類を見ないほど激動の一年となりました。第二次世界大戦の終結とそれに続く連合国による占領という大きな時代の転換期に、ラジオは様々な困難に直面しながらも、その役割を大きく変化させていきました。

戦禍と放送体制の逼迫

戦争末期、戦況の悪化は放送体制にも大きな影響を与えました。4月1日以降、終戦までの期間、番組編成は大幅に縮小され、ニュースやラジオ体操、音楽放送といった必要最小限の内容に限定されました。ほとんどの番組が休止される異例の事態となったのです。

各地の放送局も、空襲や原爆投下によって甚大な被害を受けました。3月には沖縄放送局が演奏所や放送機器を失い閉鎖。5月には名古屋中央放送局が局舎を焼失しました。そして8月、広島と長崎に原子爆弾が投下されると、広島中央放送局と長崎放送局は局舎が壊滅し、多数の職員が犠牲となりました。特に広島では約40名の職員が亡くなりましたが、生き残った職員は予備の施設で放送を再開するなど、過酷な状況下でも放送を守ろうとする努力が続けられました。

玉音放送と混乱

8月15日正午、日本の歴史上極めて重要な放送が行われました。前日の8月14日夜に昭和天皇が自ら朗読された「終戦の詔書」が、SPレコードに録音され、全国に向けて放送されたのです（いわゆる玉音放送）。

この録音を巡っては、終戦に反対する一部の陸軍将校らが録音盤を奪取しようと皇居を占拠する「宮城事件」が発生しました。また、終戦後も一部勢力による抵抗の動きがあり、8月24日には陸軍将校らが川口・鳩ヶ谷放送所を占拠し、関東地方で一時的に放送が不可能となる事件が起きました。同日未明には松江放送局でも同様の占拠未遂事件が発生するなど、激動期における放送メディアの重要性と、それを巡る混乱が浮き彫りとなりました。

戦後、占領下での再出発

終戦を迎えると、ラジオ放送を取り巻く環境は一変します。まず、戦時下の電波管制が解除され、9月1日には周波数帯が原則として戦前の状態に戻されました。東京、大阪、名古屋ではラジオ第2放送が再開されたほか、仙台、熊本、札幌、広島でも新たに第2放送が開始されるなど、多チャンネル化の第一歩が踏み出されました。

同時に、日本を占領下に置いた連合国軍最高司令官総司令部（GHQ/SCAP）が放送に大きな影響力を持つようになります。9月5日からはNHK東京放送会館の一部がGHQに接収され、GHQ内に設置された民間情報教育局（CIE）や民間検閲支隊（CCD）が、放送内容や番組制作に対する指導・検閲を行うようになりました。これにより、報道の自由や番組の多様性が一時的に制限される一方、民主主義や平和に関する情報伝達の手段としてもラジオが活用されることになります。

9月には、GHQの指令により海外向けの外国語放送（9月4日）および日本語放送（9月10日）が停止されました。また、7月には沖縄で、9月23日には本土で米軍放送（AFRS）が放送を開始し、東京放送会館の一部はAFRS東京局となりました。

番組の変遷と新たな始まり

占領下では、GHQの意向を受けて放送内容が大きく変化しました。戦時中のプロパガンダ的な色彩の強い番組は姿を消し、教育、情報、そして娯楽の要素が強められました。9月以降、「実用英語会話」や戦後の復興を意識した「建設の声」、「街頭にて」のような市民生活に根ざした番組が次々と始まりました。

長らく中断されていたスポーツ中継も復活し、11月には大相撲秋場所の中継が行われました。そして年末の12月31日には、今日のNHK紅白歌合戦の源流となる「紅白音楽試合」が放送されました。当初「合戦」という言葉が封建的であるとして避けられ、別の呼称となったことからも、戦後の新しい時代への意識の変化がうかがえます。

1945年は、戦争という未曾有の災禍を乗り越え、占領下という新たな環境に適応しながら、日本のラジオが今後の放送のあり方を模索し始めた、極めて重要な一年だったと言えるでしょう。この年に築かれた放送体制や番組の方向性は、その後の日本の放送文化の礎となっていきました。

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