1946年の日本競馬

1946年（昭和21年）は、第二次世界大戦の終結を受け、日本の競馬界が戦後復興に向けて大きな一歩を踏み出した年です。旧馬齢表記を基準に、この激動の一年を振り返ります。

戦後混乱期の胎動

年明け早々、各地で非公認の競馬、いわゆる「闇競馬」が開催され始めました。1月12日には静岡県北山村で記録に残る最初の闇競馬が催されています。

一方で、公的な競馬組織も動き出します。戦時中に存在した日本馬事会に代わり、2月9日には社団法人中央馬事会が設立され、ほどなく旧組織は解散しました。中央馬事会は直ちに地方競馬法の草案作成に取り組みます。

競馬場施設への影響も続きました。1月には東京競馬場の事務所の一部が進駐軍の失火により焼失し、敷地の一部が追加接収される事態が発生。東北支所の事務所も4月に焼失しています。

旧馬主の消息確認も重要な課題でした。日本競馬会は地方有力紙に広告を出すことで、多くの旧馬主の所在を明確にしました。

競馬制度の再構築と進駐軍の影響

建設が進められていた阪神競馬場（逆瀬川）は4月に竣工し、県から使用許可を得ましたが、完成間もない敷地の中心部約10万坪が進駐軍のゴルフ用地として接収される事態となりました。北海道の札幌競馬場や函館競馬場でも、進駐軍の指示による法規に基づかない競馬が行われています。

組織改編も進められ、5月には日本競馬会の長森副理事長が退任し、後任に加納久朗が就任。7月には日本競馬会の申請により競馬委員会が認可されました。また、8月には日本競馬会がばんえい事業から撤退し、新たに設立された財団法人ばんえい協会へ事業資産と創業資金を譲渡しました。

競馬の実施に関する規程も改定されました。9月には農林省が競馬施行規程を認可し、これによりそれまで禁止されていた2歳馬の出走が年間4回まで認められることになりました。

公認競馬の再開と制度改革

10月には、競馬法の一部改正（法律第37号）が施行され、勝馬投票券の購入制限が一人一枚から撤廃され、払戻金の最高額も100倍へと引き上げられました。これにより、競馬はより多くの人々にとって身近なものとなります。

そして10月17日、戦後初めてとなる公認競馬が東京競馬場と京都競馬場で3年ぶりに再開されました。これは多くの競馬ファンにとって待望の瞬間でした。秋季競馬は両競馬場で7日間ずつ行われました。

闇競馬への対応として、11月には地方競馬法およびその施行規則が公布されました。これにより一部の闇競馬は公認の地方競馬へと移行しましたが、一方で中止された開催もあり、この年、正式な許可を得て開催された地方競馬は27都道府県で計32回に留まりました。

その他、この年にはサラブレッド協会が農林省に認可されたほか、八王子市の闇競馬では日本で初めてとなる連勝式馬券「フォーカスト」（6枠対象）が登場するなど、様々な動きがありました。

年末には、翌1947年度の特別競走についても概要が審議され、のちのクラシック競走の名称や施行場所が定められました。中山四歳牝馬特別は「桜花賞競走」として京都で、横浜農林省賞典四歳呼馬は「春季農林省賞典」として東京で、そして農林省賞典四歳呼馬は「秋季農林省賞典競走」として京都で開催されることが決定。さらに、東京優駿には「ダービー」、優駿牝馬には「オークス」という副題が付されることも決まり、現在のクラシック競走の基礎が築かれました。

この年、広島県五日市競馬場が開場した一方、新潟競馬場は腸チフスワクチン製造のため、東京芝浦電気への貸与期間が延長されるという、戦後ならではの事情もありました。

主な競走成績

戦後再開された公認競馬では、以下の主要競走が行われました。

第7回優駿牝馬（オークス）（東京競馬場・11月24日）
優勝：ミツマサ（騎手：新屋幸吉）
第7回農林省賞典四歳馬（京都競馬場・12月1日）
優勝：アヅマライ（騎手：武田文吾）

この年に誕生した名馬・名伯楽

1946年は、後のクラシック戦線で活躍する多くの名馬が誕生した年でもあります（この世代は1949年のクラシックに出走）。

シラオキ（4月7日生）
タチカゼ（4月11日生）
オーエンス（4月24日生）
キングナイト（4月29日生）
ヤシマドオター（4月30日生）
トサミドリ（5月20日生）
ヒンドスタン（生年不明）
ソロナウェー（生年不明）

また、後に中央競馬で騎手、調教師として大成する多くの人材もこの年に産声を上げています。

松田博資（1月29日生）
菅原泰夫（4月1日生）
増本豊（4月22日生）
柴田政見（7月1日生）
長浜博之（9月19日生）
成島英春（10月24日生）
* 飯田明弘（12月9日生）

1946年は、戦争の傷跡が残る中で、競馬の灯を再びともし、新たな制度の基礎を築き始めた記憶すべき一年と言えるでしょう。

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