1950年の日本の女性史

1950年（昭和25年）は、戦後の復興が進む日本において、女性たちが社会の様々な局面で存在感を示し始めた一年でした。この時期の女性に関する出来事は、単に歴史上の記録としてではなく、現代へと続く女性の権利や社会参加の道のりを知る上で重要な意味を持っています。本項では、この年に起こった主な出来事を時系列に沿って紹介します。

年初に見られた動き

年明け早々、京都では「全京都婦人民主団体代表者会議」が結成され、その後の市長選挙や府知事選挙において、民主戦線統一会議の一員として政治的な動きに関わりました。また、長崎県の松浦炭鉱では、争議に関連して検束された人々を釈放させるため、鉱員の妻たちが会社事務所まで約32キロメートルに及ぶデモ行進を主導。後に主婦約150名が上京し、各方面に陳情を行うなど、労働運動において女性が家族として、また主体的な存在として関わる事例が見られました。

2月には、アメリカ軍将兵と日本女性との結婚に関する問題がアメリカ議会で取り上げられ、占領軍総司令部（GHQ）が結婚禁止令を解除するという動きがありました。また、日本の婦人界代表がアメリカ合衆国の婦人問題視察のため渡米し、国際的な交流も行われています。

不況下の労働問題と女性

この年、不況による失業者の増加は深刻な問題となり、特に女性に大きな影響を与えました。職業安定所への登録が数ヶ月待ちとなる状況下、登録を求めて約200人が座り込みを決行しましたが、その参加者の半数以上が女性でした。企業整理による失業者の妻、商店主婦、未亡人、夫の病気で働く女性など、様々な背景を持つ女性たちが厳しい現実に直面していました。労働省は失業者対策として輪番制を導入しましたが、多くの「アブレ」（仕事にあぶれること）を生み、特に女性の就労は困難を極めました。秋には再び女性や高齢者を中心に職安での座り込みが行われています。

日雇い婦人労働者たちも黙ってはいませんでした。2月末には「みんなで相談し合う会」が開かれ、失業対策予算の増額、賃金引き下げ反対、託児所の設置、新規登録の承認などを要求する決議が採択されました。会議からは「婦人と子供をいたわって下さい」「どんなことがあっても戦争はいやです」といった平和への切実な願いも表明されています。

平和への強い願いと社会運動

3月8日の国際婦人デーは、全国で約1万人もの人々が参加する大規模な中央集会が日比谷で開催されました。民主婦人協議会をはじめとする様々な婦人団体、労働組合、政党などが結集し、戦争準備反対、全面講和と民族独立、軍事基地化反対、原子兵器製造禁止などを強く訴えました。集会のスローガンには、「家を焼き夫や子供を奪う戦争反対」「平和を守るためすべての婦人は先頭に」「平和のために世界の婦人と力を合わせよう」といった言葉が並び、平和への強い意志が示されています。

集会直後には、原子兵器絶対禁止を求める「ストックホルム・アピール」が世界へ向けて発表され、これを受けて日本では「夫や息子を戦場に送るな」を合言葉に署名運動が展開されました。女性たちは平和実現に向けた運動の担い手となっていきます。夕張炭鉱のストライキでは主婦約200名がデモに参加し、鉱員主婦だけの会が結成されるなど、労働争議と平和運動が結びついた動きも見られました。

4月10日の「婦人の日」中央集会も、多数の団体が参加して開催されました。ここでも「戦争は絶対いやです」「世界の平和は婦人の団結から」といったスローガンが掲げられましたが、集会後の平和行進では、労働組合員の参加者が組合旗や赤旗を掲げたことで、一部の団体が行進に参加しないという出来事もあり、当時の社会情勢や思想の違いを反映しています。

多様な分野での女性たちの活動

労働争議への家族参加は、5月の日立製作所の争議でも顕著でした。従業員だけでなく、その家族も集会やデモに参加し、徹夜の団体交渉時には炊き出しを行うなど、組合運動を支えました。各社宅では家族だけの組織「社宅婦人連合会」が結成され、会社の動きを警戒したり、部課長宅へ陳情に行ったりするなど、組織的な活動を展開しています。

法改正も女性の生活に影響を与えました。5月に公布された生活保護法では、特に未亡人のために教育扶助や住宅扶助が加えられ、生活の安定が図られました。7月には新国籍法が公布され、妻の国籍選択が自由になるなど、女性の法的地位向上に繋がる動きも見られました。

また、女性の社会進出や活躍も少しずつ進みました。外交官・領事試験に初の女性合格者が出たり、数学や文学の分野で日本人女性初の理学博士・文学博士が誕生したりしています。短期大学制度が発足し、女子短期大学が多く設立されたことも、女性の高等教育機会の拡大に繋がりました。東京-大阪間の特急「はと」に女性乗務員（通称「はとガール」）が初めて登場するなど、新しい職域が開かれる事例もありました。

社会問題への取り組みと新たな団体の設立

社会問題に対する女性たちの取り組みも活発でした。埼玉県では部落民の結婚問題を巡る村民大会が開かれ、東京大田区では赤線業者の進出に対し、地元のPTAや婦人会が反対運動を展開して建設中止に追い込みました。山口県下関市では、未亡人約5,000名が市当局に託児所や授産所の設置を求めるなど、困難な状況にある女性たちの自助・共助の動きも見られました。

10月には、人身売買や地方の婦人労働者酷使といった問題に取り組む「婦人人権擁護同盟」が、法律家や家事調査委員らの協力で結成され、実態調査や法律相談、啓蒙活動を行いました。11月には、戦争未亡人を中心に約188万人の未亡人の支援を目指す「全国未亡人団体協議会」が設立され、母子年金制度の実施や母子福祉施設の拡充を政府に要望するなど、具体的な政策提言を行いました。さらに、日用品の品質向上や安全を目指し、主婦連が日用品審査部を新設するなど、生活に密着した活動も展開されています。

文化的な側面では、東京・日本橋の百貨店で女子社員の制服が復活したり、大阪で女性のみのアルバイトサロンが登場したりといった出来事もありました。また、7月には『チャタレイ夫人の恋人』が猥褻文書として発禁処分となり、訳者と発行者が起訴されるという「チャタレー事件」が始まるなど、表現の自由を巡る問題も発生しています。

スポーツ分野では、女子プロ野球連盟が結成され、同年には日本初の公式女子ボクシング試合も開催されるなど、女性のスポーツ参加も進みました。また、戦後初の「ミス日本」コンテストが開催され、山本富士子が初代ミス日本に選ばれています。

年末の出来事と統計

年末にかけても、労働現場での女性の粘り強い闘いが見られました。桐生ゴム労働組合婦人部の委員2名が、解雇反対などを求め煙突に登って82時間以上も滞空するという出来事は、当時の過酷な労働状況と女性たちの必死の抵抗を象徴しています。また、民主婦人協議会は、朝鮮戦争における原子爆弾使用を示唆するアメリカ大統領の発言に対し、原子爆弾の全面的禁止などを訴える決議を発表するなど、国際情勢への関心と平和への希求が継続しました。

この年の統計を見ると、人身売買問題が頻発し、都市部で働く「夜の女」の中に既婚者が含まれている実態が明らかになりました。女子の大学・短期大学進学率は1.2％と非常に低い水準にとどまっていましたが、女性の平均寿命が初めて60歳を超え、61.4歳となったことは、保健衛生の向上や社会の変化を示す重要な指標と言えます。また、第7回国勢調査では、総人口約8,320万人、母子家庭が180万世帯に上ることも明らかになり、多くの女性、特に母子家庭が抱える課題が浮き彫りとなりました。

1950年は、女性たちが戦後の混乱から立ち上がり、労働、政治、社会、文化など様々な分野で権利を主張し、より良い生活と平和を求めて行動した一年であり、その後の日本の女性運動や社会の変化に繋がる重要な一歩が踏み出された年と言えるでしょう。

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