1957年の日本の女性史

1957年（昭和32年）日本の女性を巡る動き

この年は、日本の社会が戦後から高度経済成長期へと向かう中で、女性たちが様々な分野で自らの権利を主張し、新たな役割を模索し始めた変革期の一年と言えます。

法制度と社会の変化

年明けには、売春防止法の施行が女性を取り巻く法制度に大きな変化をもたらしました。これに伴い、東京都婦人相談所が開設されるなど、関連施設の整備が進められました。売春対策国民協議会は、この法律の完全な実施を求め、国民会議を開催するなど積極的な活動を展開しました。法務省人権擁護局は、悪質な芸妓置屋に対し、前借金の無効や荷物の返還を命じる仮処分を出すなど、具体的な対策も講じられました。

また、国際的な動きとして、1月29日には既婚婦人の国籍に関する条約が国連総会で採択され、女性の権利保障に向けた国際的な流れも確認されました。国内では、国家公務員の女子職員や年少者に対する労働基準法に基づく保護を定めた人事院規則10-4が制定・施行されています。

労働と職場

女性の労働環境に関しても様々な出来事がありました。北海道では、教育委員会が共働き女性教員に退職を勧奨するという通達を出しましたが、教職員組合の強い反対によりすぐに撤回されました。米軍基地で働くメイドたちが、個人雇用への切り替えに反対して無期限ストライキを実施した事例も報告されています。

繊維産業の労働組合である全繊同盟は、加盟者の大多数を占める女性たちのために、退職手当の増額や労働時間の短縮を求める長期にわたる闘争を展開し、成果を収めました。これは、女性労働者の地位向上に向けた重要な一歩となりました。また、新しい働き方として「パートタイマー」という言葉が初めて使われ、百貨店が主婦や学生を短時間勤務で募集したことが話題となりました。一方で、この年は女子大生の就職難も深刻な問題となり、解決に向けた懇談会が開かれています。全司法労働組合の全国婦人大会では、生産性向上を名目にした低賃金と労働強化への反対が決議されました。総評は、以後毎年実施されることになる「母体保護強化月間」を開始しています。

社会運動と市民活動

女性たちの市民活動や社会運動も活発化しました。母親代表として原水爆禁止運動に関わっていた久保山すずさんが、国連に派遣される計画が進められましたが、アメリカのビザが取得できず渡米を断念し、抗議声明を発表するという出来事がありました。しかし、彼女は年末にカイロで開催されたアジア・アフリカ諸国民会議に母親代表として出席しています。

第3回日本母親大会は6000人もの参加者を集め、「母親運動」という言葉が生まれるほどの盛り上がりを見せました。主婦連は、銭湯料金や消費者米価の値上げに反対する陳情や運動を行い、消費者の生活を守るための活動を精力的に行いました。また、不良ジュース追放運動を始めるなど、消費者問題への取り組みを広げています。大阪では、男性も含むすべての消費者を対象とした消費者大会が初めて開催されました。

複数の婦人団体が連携を強化する動きも見られ、国会活動連絡委員会や国連NGO国内婦人委員会が発足しました。これは、女性たちの社会への影響力を高める上で重要な組織化の動きでした。家族制度の復活に反対する婦人大会も開催され、右翼による妨害に遭いながらも主張を続けました。全国の盲婦人大会も東京で開催され、およそ200人が参加しました。

文化と社会生活

文化面では、幸田文の小説『流れる』が女性文学者として初めて日本芸術院賞を受賞しました。また、D・H・ローレンスの『チャタレイ夫人の恋人』がわいせつであるとして出版社と翻訳者が起訴された「チャタレー事件」の最高裁判決が出され、「猥褻か芸術か」が世間の大きな関心を集める流行語となりました。

この年、日本初の女性週刊誌『週刊女性』が創刊され、女性向けのメディアが新たな展開を見せました。ファッションでは、復古調の日本髪や和服がブームとなり、鴨居羊子による下着ショーが話題になるなど、多様なスタイルが見られました。流行語としては「よろめき」が生まれ、当時の社会風潮の一端を示しています。また、電気炊飯器の販売台数が100万台を突破するなど、家庭生活における電化製品の普及も進みました。

家庭観と個人の選択

内閣総理大臣官房審議室による「家族制度についての世論調査」では、旧民法に基づく家族制度、特に親との同居義務や相続における長男の優位などを肯定する意見が多く見られました。特に農村部や高齢者の間でその傾向が強く、嫁いだ娘の扶養義務や相続権については否定的な意見が多数を占めており、旧来の家族観が根強く残っていることが明らかになりました。一方で、若年層ほどその考えに否定的であり、世代間の意識のギャップが浮き彫りになりました。大阪市では、母子家庭を支援する母子福祉協助員制度が創設されています。

個人の出来事としては、元満州国皇帝溥儀の姪である愛新覚羅慧生が、学習院大学の同級生と伊豆天城山中で心中するという衝撃的な事件が起こりました。

科学分野での貢献

科学分野では、猿橋勝子が海洋における放射能物質の拡散を分析する画期的な方法を開発・完成させました。この分析結果は、アメリカによるビキニ環礁での水爆実験による海洋汚染が公表値よりはるかに高いことを明らかにし、その後の原水爆禁止運動に科学的な根拠を与える重要な貢献となりました。

国際交流と地域活動

国連婦人の地位委員会の委員国に日本が初めて選出され、谷野せつが委員となりました。また、国連初の婦人の地位に関する地域セミナーがバンコクで開催され、日本の労働省婦人課長が出席するなど、国際的な場での日本の女性の活動も活発化しました。大阪市内では、婦人学級や青年学級が設置され、生涯学習の機会が提供されました。大阪市此花区の小学校では、教師が中心となって共働き家庭の児童を支援する活動が行われています。

1957年は、女性たちが社会の表舞台で声を上げ、権利を求め、新しいライフスタイルを取り入れる一方で、伝統的な価値観も根強く残るという、まさに過渡期であったことがうかがえる一年でした。これらの出来事は、その後の日本の女性史に大きな影響を与えていくことになります。

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