1959年の日本の女性史

1959年（昭和34年）日本の女性を巡る動き

1959年（昭和34年）は、皇太子ご成婚という華やかな出来事があった一方で、女性を取り巻く社会環境には様々な課題が存在し、権利意識の向上や社会参加への意欲が高まった一年でした。労働問題、社会運動、司法の不条理、福祉制度の創設など、多岐にわたる出来事を通じて、当時の女性たちの姿が浮かび上がります。

労働と職場における課題

この年、労働現場では女性の地位を巡る動きが活発化しました。特に注目されたのは、結婚退職制の問題です。2月には山陽新聞労働組合が結婚退職制の撤回を勝ち取りましたが、東京電力では、労働組合の定年延長要求に対し、既婚女性従業員の退職を義務付ける案が提示されました。これは全従業員の6%を占める約1,700人の女子従業員のうち、既婚者約600人を対象とするものでした。平均勤続年数が9.4年、年齢29.8歳と他の企業に比べて高いことが経済的でないというのが会社側の主張でしたが、労働組合や従業員は憲法違反であるとして強く反発し、マスコミの批判も相次いだ結果、会社案は撤回されました。

その他、呉羽紡績（現・東洋紡）での既婚永年勤続女子従業員の大量解雇（退職予定者受付名目）、苫小牧市職員組合による結婚定年制撤回要求など、女性が働き続けることの困難さを示す事例が見られました。一方で、賃金改善を求める争議（全繊同盟）や、職場環境の改善（呉羽紡績の食事改善、全繊同盟綿紡部会による「お茶くみなどのサービス労働廃止月間」）、労働組合による職場託児所の開設（全電通）など、労働条件の改善に向けた取り組みも進められました。

また、都市部では皇太子ご成婚に伴うOLの退職増加により、高卒女子の臨時採用が急増した現象も見られました。内職者の労働実態も明らかになり、特にビニール製品の接着作業に用いられるペンゾールによる中毒が問題化しました。安価で速乾性があるため危険性が無視され、労働基準法で規制されているにも関わらず使用され、死亡者も発生しました。東京都の調査では、内職者の95%が女性で、日収は100〜150円という厳しい状況が報告されています。

社会運動と市民活動の高まり

主婦や母親を中心とした市民活動も活発に行われました。主婦連合会は消費者ゼミナールを初開催し、「生産者である婦人と消費者である婦人が結びついて政治を監視する」と主張しました。また、ガス料金値上げ反対陳情や競輪即時廃止陳情など、消費者の権利保護や社会問題への関与を強めました。新生活運動協会などが主催する「新生活と貯蓄全国婦人大会」も始まりました。

母親大会は、この年第5回大会が開催され、3万人もの参加者を集めました。特に平和問題に関する分科会や集会が盛況でした。しかし、この母親大会に対して自由民主党は「国際共産主義につながり反政府活動を目指すもの」と批判し、地方支部やPTA、自治体への補助金打ち切りを通達するなど、政治的な圧力がかけられました。実行委員会はこれに強く抗議しました。安保条約改定が政治日程に上る中で、婦人団体連合会や母親大会、人権を守る婦人協議会などが安保改定反対の姿勢を明確にし、母と娘による集会やデモも行われました。

その他にも、炭鉱失業者救済のための「黒い羽根」募金運動を福岡の主婦が提唱し、街頭募金が開始されたこと（三井三池争議との関連）、長野県でPTA母親文庫10周年を記念した「本を読む母親の全国集会」が開催されたこと、不良週刊誌追放運動が「買わない」運動へと方針を強化したことなど、多様な市民活動が見られました。

司法・人権を巡る問題と支援

この年、特に重い意味を持ったのが、徳島ラジオ商殺し事件における富士茂子氏の再審請求開始です。1953年に発生した事件で殺人犯とされた茂子氏は、物的証拠がなく、後に虚偽と判明する証言のみで有罪となり、1958年に上告を取り下げて服役していました。茂子氏は一貫して無実を訴え、その支援に立ち上がったのは、親族に加え、市川房枝、神近市子、瀬戸内晴美といった、時に“翔んでる女性”と揶揄されながらも女性解放運動を牽引する人々でした。

特に茂子氏の姪の夫である渡辺倍夫氏の執念深い調査により、有罪の根拠となった証言が偽証であったことが明らかとなり、1959年3月、最初の再審請求が高松高裁に提出されました。しかし、管轄違いを理由に棄却され、その後も度重なる再審請求は裁判所に退けられ続けました。この裁判を通じて、地元メディアによる「狡智」「男まさり」といった報道や、公判傍聴席での同性からの罵倒など、根強い性差別が茂子氏を苦しめました。法務省を挙げて再審を阻止しようとするかのような異様な動きも見られ、茂子氏は「改悛の情がない」として模範囚にも関わらず長期の服役を強いられ、仮出所時には再審請求をしない誓約書への署名を強いられるなど、司法や行政の理不尽さが浮き彫りとなりました。

徳島ラジオ商殺し事件は、茂子氏の死後、親族や支援者によって再審請求が継承され、1980年に再審開始が決定、最終的に1985年に死後無罪判決が下されるまで、長きにわたる闘いとなりました。1959年の再審請求開始は、この壮絶な冤罪事件の解決に向けた長い道のりの始まりでした。

また、新潟国立高田病院で、既婚看護婦に対して出産を6年に1度、失敗時は中絶を義務付けるという人権無視の出産制限が行われていた問題が発覚し、労働組合の投書をきっかけに社会的な批判を浴び、撤廃される出来事もありました。

社会制度と福祉の拡充

この年、国民年金法が公布され、母子寡婦年金や母子福祉年金制度が創設されました。簡易生命保険法改正では家族保険が創設され、社会保障制度の拡充が進みました。働く母親を支援するため、群馬県桐生市に「働く婦人の家」が落成し、託児所も開設されました。年末には全国の地方自治体でホームヘルパー制度が発足するなど、在宅福祉の取り組みも始まりました。東京都では売春防止法による更生婦人が結婚する際の支度金を貸し付ける条例改正も行われました。

社会進出と文化・流行

女性の社会進出も着実に進みました。地方選挙では県会議員37人、5大市議会議員13人が当選し、参議院議員通常選挙でも8人が当選しました。大阪大学の望月和子は理論物理学分野で女性初の理学博士となりました。警視庁には初の婦人刑事が誕生しました。働く女性の地位向上や同一賃金確保などが議論された国際会議も開催されています。

文化面では、皇太子明仁親王と正田美智子さんのご結婚パレードがテレビ中継され、1500万人が視聴したと言われるほど大きな注目を集め、「ミッチー・ブーム」を巻き起こしました。白いコートやテニスウェア、ヘアバンドなどが流行し、多くの女性が新たな皇太子妃のファッションやライフスタイルに影響を受けました。一方、梅棹忠夫氏の「妻無用論」が発表されるなど、女性の役割や家族のあり方に関する論争も現れました。

1959年は、女性が直面する労働問題や社会的な不平等に対し声を上げ、権利獲得や地位向上を目指す動きが広がりを見せた年であり、同時に、冤罪事件を巡る壮絶な闘いや社会保障制度の発展、文化現象など、様々な出来事が interwoven された一年でした。


本項目は、1959年における日本国内の女性に関する出来事を時系列的にまとめたものであり、歴史研究としての女性史や、特定の体系に基づいた論述を目指したものではありません。参考文献については、日本の女性史年表をご参照ください。

（徳島ラジオ商殺し事件に関する記述は、記事「徳島ラジオ商殺し事件」の参考文献に基づくものです。）

もう一度検索